第26章 番外編 ② 或る風の息吹の
( ···使えるモンは、何でも使うぜ )
一歩、一歩。また一歩。地を踏みしめるたび赤い液体がぼたぼたと畦道を染めてゆく。
平然とした態度で鉄鎖を引きずりながら鬼に歩み迫る実弥の姿は、酩酊し虚ろになった鬼の双眸にもどこか異端なものに映った。
鬼である自分を追い詰めているのはまだ少年と呼べる年齢の人間だ。
それも、【鬼狩り】とはまた別の。
異種異形の存在を前にし、逃げ出すどころか自らの腕に刃物を振るった。
縫い合わせなければ塞がらないだろう裂傷。滴り落ちる血。であるにも関わらず、雫も顔を歪めない。喚くことももがくこともしない子供──。
「グェ"···ッ!!」
鬼の眼前までやってくると、実弥はそのまま流れるようにあらんかぎりの力で鬼の腹を蹴飛ばした。
つぎはぎの身体が背から地面に激しく叩きつけられる。
稀血とは、血液の中でも珍しいとされる種のもの。人間の血肉が力の源となる鬼にとっては美酒佳淆 (びしゅかこう) に等しいと言っていい。だが極めて希少な実弥のそれは、純度が高く嗅ぎ慣れない、一種独特な洋酒にも似ている。
「ガッ"、ゲフ···ッ"!! ご、ッの"、ガキ"ィ"···イ"!!」
実弥は休むことなく鬼の腹を何度も何度も踏みつけにした。折り重ねた鉄鎖を使い、鞭のように、顔面や身体を繰り返し痛めつけた。
捕らえたら、この畦道を抜けてすぐの場所にそびえ立つ大木に縛り付けるのだ。少しばかり移動しなければならないため、気を失わせるか、できる限り弱らせておく必要がある。
鬼を追いかけはじめてすぐ、実弥は奴らに再生能力があることを知った。しかしながら攻撃に痛みを伴わないわけではない性質であることにも気づいた。加えて再生時間は個々で差があること、やり方によっては、一時的に身動きを封じることも可能だと。
この鬼も、酩酊させてしまえばさして手こずるほどではないようだ。前回捕らえた鬼のほうがまだ手強かった。
眼前の鬼がだいぶん弱ったのを見計らい、実弥は鉄鎖の束をほどいて鬼の身体の上を跨いだ。
そのときだった。
ズザァ···ッ!!
「ッ"···!?」