第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
星乃は、会話をしながら腰に回る実弥の腕にそれとなく手を添えた。
冨岡さんをお見送りしましょう。そう促すように。
「替えの着流しは改めて返しに伺おう」
「···あ? んなもんはいい。そいつはテメェにくれてやるよォ」
「いや、しかし」
致し方なしに星乃から退くと、戸惑いを覗かせる義勇をよそに、実弥は続けた。
「···そういやァ、お前んとこのガキは生まれてどのくらいだっつった?」
「? もうじき半年になる」
「なら、うちで着れなくなった赤子の着物も幾つかやるよォ。無理にとは言わねェが······欲しいもんがあるなら持ってけェ」
「···! いいのか?」
「だからいいっつってんだろォ、何度も言わせんじゃねェ」
「こっち来いやァ」と厨を出てゆく実弥のあとに義勇も続く。
その後、納戸にしまい込んでいた赤子用の着物を数着、風呂敷に包んで義勇に渡した。片腕では大変だろうと、義勇の身体に風呂敷を縛り付ける。
いつしか客間はしん···と静まりかえっていた。天元に寄り添うようにして眠る雛鶴たち三人が、とても微笑ましかった。
伊之助とはじゃぎ回ったスミレと寛元。終始玄優に構ってくれた炭治郎。本日主役の禰豆子と善逸。それぞれが身を寄せ合うようにして穏やかな寝息をたてている。玄優は人見知りも激しい質だが、炭治郎には驚くほどすぐに懐いた。
もしもこの場に寫眞機があればこっそり収めていただろう。そのくらい、皆幸せそうな寝顔をしている。見ているだけでこちらも心がぽかぽかと温かくなる。
そのまま寝かせておいてやろうと言う義勇を、実弥と星乃だけで見送った。
去り際、義勇は「ありがとう」と言って笑った。産屋敷の庭で撮った寫眞のなかのそれと同じような、こぼれるような笑顔だった。
実弥と義勇。痣を出し生き残った柱。
年齢も同じ彼らは同じものさしで互いの身を案じている。
『生きることだけを考える』と心に刻んだあの日から、実弥も星乃も寿命のことは一度も口にしていない。しかれども、実弥か義勇に何かしらの変化があれば、いよいよ腹を括るしかないことも片隅に留めておかなければならない。
義勇が息災であることは純粋に喜ばしくもあり、同時に己の希望でもある。