第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
もとより義勇は己の存在を主張しすぎない性質であるためか、鬼殺隊時代の名残ばかりとも言えない密やかな影を身に纏ってそこにいた。
ひたいを上げて実弥も義勇を認めたものの、まだ星乃の背にべったりと引っ付いた状態だ。
そんな二人をまばたきしながら見つめる義勇。眉目秀麗な顔立ちも健在だが表情も相変わらず読み取りにくい。とはいえ多少なりとも驚いている様子は伝わってくる。
「その通りだぜ冨岡ァ···見りゃァわかんだろォが取り込み中だァ···」
「や···っ、違いますそんなんじゃ···っ、あ、冨岡さんお酒を取りにきてくださったんですよね? すぐに新しいものをお持ちしますので······実弥、準備するから少しだけ離れてもらえる?」
「ァア? なんで俺が星乃から離れなきゃならねぇんだよォ···冨岡が消えりゃいいだけの話じゃねェのかァ」
「え、それは少し違うような」
実弥の言動がちょっと子供みたいで思わずまごまごする星乃。
通常、人前でこのような姿を晒すことはとんとない実弥である。特に鬼殺隊時代の仲間の目に触れたとなれば照れ隠しで気色ばんでもおかしくない状況だ。それなのにほろ酔い真っ只中の実弥は一向に星乃から離れようとする素振りを見せない。
義勇は心なしか表情を柔らかにした。
「ならばそのままでいるといい。俺は暇を告げにきただけだ」
「え? 帰られるんですか? もう遅い時間ですし、冨岡さんさえ不都合でなければぜひ泊まっていってください」
「いや、妻と子供を一晩ほうっておくのは気が引ける」
「あ···そういえば、お子さんも生まれて間もないですものね」
「もとより日が傾く頃には失敬するつもりでいた。唐突に押しかけたうえ、長居してすまない」
「そんな、」
雨の中はるばるご足労いただきましたのにたいしたお構いもできませんで······と、実弥ごとうやうやしく頭を下げる。
「冨岡さんのお元気そうなお顔を見れて、本当に嬉しかったです。またいつでも遊びにいらしてくださいね。よろしければ今度はご家族で」
「そうだな。妻にもそう伝えておこう」