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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:



「···実弥?」



 呼びかけてもなにも返らない。酒で上昇した体温と、少しだけ早い鼓動が微かに背中に伝わってくるだけ。

 今宵は実弥にとっても久しい宴だ。口では面倒だとぼやいても、内心では喜びを噛みしめている。星乃には終始そんな面持ちに見えていた。本人が思っている以上に酒も進んだのだろう。

 無理矢理起こすのも気が引けるけど、かといっていつまでもこのままでいるわけにはいかないし···。

 頭を悩ませていた最中、



「······あいつらも」

「え?」



 呟く程度の低い声が耳殻を掠めた。



「ちゃんとテメェの人生遣れてんだなァって、思ってよォ」

「あいつらって······竈門くんたち?」

「ああ···。息災で暮らしてるこたァ手紙からも伝わるが、祝言だ恋仲だと上機嫌に振る舞っていやがるあいつらと飯囲んで飲み食いすんのは、感慨深ェもんがある」

「そうね···。きっと、宇髄さんもそう思ったからみなさんを連れてきてくれたんじゃないかしら」

「幸せでやってんなら、この上ねぇ···」

「それ、竈門くんたちに直接言ってあげたらどう?」

「···言えるかァ」



 素直じゃないなあと、星乃は頬を綻ばせた。

 星乃は見たのだ。過日、縁側で炭治郎からの手紙に目を通す実弥の顔は柔らかな微笑みを携えていた。

 おはぎと抹茶を用意したかと思えば、行き先も告げずにどこかへ出向くこともある。

 野暮用だという実弥をそれ以上問い詰めることはしなかった。

 向かった場所は爽籟がこっそり教えてくれた。





「不死川」



 突如背後から呼ばれ振り向く。

 厨の入口に立っていたのは義勇だった。酒のせいか、義勇の顔にもほんのり桜色が差している。



「···すまない、邪魔をしたか」

「っ冨岡さ」



 星乃は若干焦った様子で実弥ごと義勇に振り向いた。

 義勇は相変わらず気配が薄い。


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