第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
元気いっぱい、遅れて伊之助のお出ましである。
彼の装いばかりは鬼殺隊時代となにひとつ変わっていない。素顔は美形と噂の顔は、今日も今日とて猪の被り物に隠されている。
「どこ行ってたんだよお前···って! はぁ!? ちょっとねえ、ソレなに抱えてきてんの!?」
「善逸、少し静かにするんだ」
わめく善逸をたしなめる炭治郎。しかし、伊之助を目にしたとたん炭治郎もぎょっとした。
伊之助はなぜか蓄音機を担いでいた。
「なっ、こら伊之助! だめじゃないか勝手に人様の家のものを······どこから持ってきたんだ? いますぐもとの場所に返してくるんだ」
「ハァ!? ひとを盗人みてぇに言うんじゃねェ! あの蔵に転がってたモンだ! だったら捨ててあんのと同じだろうが!」
「···蔵?」
それは祖父の収集品だったものだわと、星乃は言った。
ラッパ型ぜんまい式の蓄音機。製造年月日を見ると明治時代となっている。ニッポノホンの初期型だ。
星乃の祖父は曾祖父同様ガラクタ集めが趣味だったので、壊れて音の鳴らないものをどこからか引き取ってきたのだという話を祖母キヨ乃から聞いたことがあった。
家にはすでに新しい蓄音機があるため祖父の蓄音機は蔵に追いやられていたというわけだ。
「なんだこれ吹けるラッパじゃねぇのか」
「これは蓄音機といって、音楽を聴くための機械なのよ」
「ふうん、音楽とかよくわかんねぇな」
「なにか聴いてみる? 向こうに壊れていない蓄音機があるから」
「おっ、いいねえ。外は生憎の雨模様だ。景気付けに我妻と禰豆子の婚前祝いでもしようじゃねェか」
天元が伊之助と星乃の間に滑り込む。
諸手を挙げて賛成し、皆ですぐさま準備に取りかかることにした。
炭治郎は「せっかく不死川さんに会いにきたのに自分たちを祝ってもらうのは申し訳ない」と首を横に振ったが、
「主役はお前じゃねェ、禰豆子だろうが。宇髄も酒呑む理由が欲しいんだろ。皆の好きにさせてやれ」
実弥のこの一言に、炭治郎も禰豆子も顔を見合せ照れくさそうに相好を崩した。