第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
「どうということはない。乗用車とのすれ違い様に雨水をかぶっただけだ」
「頓痴気かよ」
「ぶくく···っ、オイやめろ、まぁた思い出しちまうじゃねェか腹よじれるわ。冨岡だけだぜ、頭からド派手に水ぶっかけられたのは」
「風邪でも引いたら大変だわ。すぐに替えのお召し物をご用意しますね」
「気遣いには及ばない」
「及ばない、じゃねェよ濡れちまうだろうが畳がよォ」
「···そうか」
「ったく······間が抜けてやがるとこは変わんねェなぁテメェはァ」
「悪ィな星乃。手間かけついでに飲みもんと茶請けも適当に頼む」
「あ、はあい、今すぐ」
「だからここはテメェの家か馴染みすぎだろォ」
「星乃さん、私たちも手伝うわ」
「ありがとう雛鶴さん。あ、まきをさんはゆっくりしていて! ここまで来るのにも疲れたでしょう? お腹の赤ちゃんに障るといけないからあまり無理はしないでね」
「あはは、ありがとね。といっても今のことろ悪阻もなく元気なんだけど」
「じゃああたしとまきをさんは子供たちの御守りをしますね!」
「アンタは単に遊びたいだけでしょうが須磨」
「ふふ、ありがとう須磨ちゃん。助かるわ」
雛鶴は厨へ向かい、星乃は寝間へ着流しを取りに行く。
玄優を抱き寄せ「可愛い可愛い」と頬擦りする須磨。その傍らを寛元が駆け足で抜けてゆき、スミレの前にふたつのお手玉を差し出した。
寛元は、紫紺の花模様の生地で作られたお手玉を小さな手に大事そうに握りしめていた。
「これスミレのだいすきなおはな!」と目を輝かせるスミレに「···あげる」ともじもじする寛元。
愛らしいがすぎる······!
幼子二人のやり取りに打ち震え、須磨とまきをは目頭を抑えて涙を流した。
「不死川さんご無沙汰しています。いつも美味しいおはぎと抹茶をありがとうございます。玄優くんも大きくなりましたね。子供たちみんな可愛いなあ」
「···お前らも変わりねェみてェだなァ」