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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:



「実弥、大好きよ」

「─ッ、!?"」



 子供たちにしたのと同じ、実弥を身体いっぱいで抱きしめる。

 胸もとに埋まる実弥の横顔。膝立ちした星乃が頭ひとつ分実弥を見下ろす形の抱擁。瞬間、実弥の耳殻が薄紅色を纏った。子供たちの目に触れていることもまた照れくささに拍車をかけた。



「スミレもとうさまぎゅっとする!」

「とぉと、とぉ、と」

「あら、玄優がものすごい勢いで這い這いしてきたわ」

「な"、オイ···ッ"」



 左側にスミレが飛びつき、右側を玄優がよじ登ろうとつかまり立ちをはじめれば、さながら天元顔負けの、色男を取り合う図の出来上がりである。



「スミレね、とうさまのことだいすき」

「とぉと、ぁぅ、あ」

「ふふ、ね。みぃんな実弥が大好きよ」

「ッコ"ラ星乃···っ、お前は一旦離れ···ッ"、クソ重ェ······ッ"」



 ドッターン!!

 実弥を下に、家族四人もろともその場にひっくり返ってしまった。可笑しくて、楽しくて、少々呆れ顔の実弥を囲い、星乃は子供たちと一緒になって飽きるまで遊び戯れた。


 一呼吸ついたあと、実弥も静かに微笑んだ。
 
 開け放した居間の扉付近では、実弥たちを見守る影が微かに揺れた。

 そっと去りゆく林道の目には、随喜の涙が滲んでいた。







「実弥、身体痛くない? 大丈夫?」



 ひと騒ぎが落ち着いた頃、星乃は一足先に立ち上がり実弥に両手を差し伸べた。

 満足げに夫を見下ろす恋女房を一瞥し、雀の涙ほどの力を借りて起き上がる。

 トン。
 実弥は寄りかかる素振りを見せて星乃の身体を引き寄せた。



「?」

「星乃···んな腑抜けたツラしてられんのも今のうちだぜぇ······今晩は覚悟しとけよォ」

「っ、え···っ、ど、どうしてそうなるのっ?」



 耳殻に触れるか触れないかの唇は、挑発的な言葉を脳髄にまで流し込んでくる。

 星乃は赤面し、爆発した。


 ああ、羞恥をお返しされているのだ。


 そう気づいたとてどうにもならない。





 今宵、容赦なく抱き潰されることが決まった瞬間である。



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