第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
袖のない前開きの羽織りが二枚。小さなそれをスミレと玄優の一つ身のうえに重ね、前紐で結ぶ。
「これなあに? げんゆうとおんなじだねえ」
「そうよ。玄優とお揃い」
「げんゆうのちっちゃいねえ。かわいいねえ、げんゆう」
「スミレも大概小せェがなァ」
「二人とも、とっっても可愛いわ」
星乃はふたつの小さな身体を両腕いっぱいで抱きすくめた。
可愛い可愛い。やっぱり我が子が一番可愛い。
ぎゅうぎゅう、ぐりぐり。もう離してやらないぞ! とばかりに身体をすり寄せ撫で回す。
きゃらきゃらと、スミレと玄優の笑い声が居間の外まで響き渡った。
はしゃぐ三人の傍らで、相好を崩した実弥の眼差しがより柔らかなものになる。
「ね、実弥も一緒にぎゅう~ってしましょ」
「···ァア?」
星乃は、一人蚊帳の外でもご満悦な様子の実弥に手招きをしてみせた。すると、微笑みから一変。実弥は虚 (きょ) を衝かれたときのそれと同じ表情で、片方の眉を持ち上げた。
驚き。戸惑い。面映ゆさ。段階を踏んでゆくように、顔つきが変化する。
三人から注がれる熱視線を流し見て、実弥は参っちまったなァという面持ちで、うっすら紅潮した頬を宥めるように耳の後ろを引っ掻きながら口を開いた。
「別に······俺に構うこたァねェ。俺はお前らが息災でいてくれさえすりゃあ申し分ねェんだからよ」
「そんなさみしいことを言わないで」
珍しく星乃も粘る。
もちろん、大仰に振る舞うことはしなくても、家族を愛する実弥の気持ちは十分に伝わっている。とはいえ実弥が蚊帳の外を望むのは照れ隠し故のこと。
なによりも、星乃自身が実弥との密な触れ合いを欲していた。
「玄優、ちょっとごめんね」
抱えていた玄優を、畳のうえに座らせる。
自分たちから離れる母を自ずと目で追いかけてゆくスミレと玄優。
ややあって、二人の黒目がちな眼球に、母が父に寄り添う姿が映し出された。