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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:



「え、本当?」

「つい先刻のことだ······間違いねェ。確かに言いやがったんだコイツ。俺のことを『とぉと』ってなァ」

「『あー』と『うー』以外ははじめてじゃない?」



 実弥の傍らに座り込み、食い入るように玄優をじっと見つめる星乃。しかし玄優にはふにゃりとした可愛い笑顔で愛想を振り撒くばかりである。



「言わないわねえ。私も聞きたかったわ」

「げんゆうがね、とぉとていって、それでとおさまのおててがぶるぶるしたの」

「スミレはそれを教えにきてくれたのね。どうもありがとう」



 よしよしと頭を撫でると、スミレは満足げな顔で鼻先を高くした。

 要するに、三人でおままごとをしている最中、玄優が実弥に向かってはじめて「とぉと」という言葉を発し、玄優を抱く実弥の手が感極まり震えた、ということらしい。



「なんだァ? スミレは星乃のところまで行っちまってたのか?」

「そうなの。突然一人で納戸までやって来たからびっくりしちゃった」

「俺が目ェ離しちまったせいだなァ。もういっぺん言ってくんねェかとつい玄優にばかり入れ込んじまって······ごめんなァスミレ」

「スミレ、もうおねえさんだから、ひとりでもへきいよ」

「そうね。スミレも立派なお姉さんだものね。けど納戸には入ってきちゃいけません。それから、今日はお家の中だったからよかったけれど、お外へは勝手に出ていかないと約束して?」

「はぁい」



 二人は小指を絡めて指切りをする。

 のんびりとしたスミレの口調はさきほどの星乃の返しにそっくりだった。

 おままごとの仕草だったり、ほんのちょっとした発音の仕方が一層星乃に似てくるスミレを見ていると、迂闊なことは言えないわねとつい苦笑が零れてしまう。



「いいや、今回は俺の責任だ。スミレはずっとここで行儀よくしてたんだもんなァ」

「あらさとちゃんいらっしゃい。こちらスミレのあなたなの」



 子供の切り替えの早さは一級品。実弥の擁護などどこ吹く風で、スミレは布製の抱き人形を手に気儘におままごとをしはじめる。



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