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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:



 しかしながら、外で覚えてきたのだろう。夫役の実弥を「あなた」と呼び、実弥をぎょっとさせたのはこの頃の話だ。

 けっきょくスミレがなにを伝えたがっているのかわからないまま、星乃はスミレを抱えて納戸から出た。


 三人は居間で遊んでいたはずだ。

 納戸には、細々した物や骨董品、その他の割れ物やはさみなど、子供が触れるには少々危険なものがそこかしこに置かれているため、星乃が納戸にこもりたいときには実弥が子供たちを見ていてくれる。


『危ないから納戸には入ってきちゃ駄目よ』


 もう言葉を理解できるスミレにはいつもそう伝えているし、納戸仕事をしている星乃のもとへスミレが一人でやって来たことはこれまでに一度もなかったのだが···。



「見ー渡せーばーあーおーやなぎ、はーなさくーら、こきまぜてー、みーやこにーはみーちーもせに、はーるのにーしーきーをーぞー」



 梅雨時ともあり、このところ曇り続きの空を横目に見ながら、せめて気分までは曇らないようにと歌いながら廊下を歩く。


 スミレが開け放したまま出てきたからか、居間に繋がる障子戸は開かれていた。



「実弥?」



 中を覗くと、胡座を組んで座っている実弥の後ろ姿が見えた。

 星乃の腕からおりたスミレがとうさま、と駆け寄ってゆく。

 実弥が振り向いた。

 実弥に抱かれた玄優の、「ぁ~、ぅあ」というご機嫌な声を聞き星乃も微笑む。



「星乃」

「ん?」



 ふと、実弥の顔がどことなく強ばっていることに気づく。

 なにかあったの? そう訊ねようとした矢先、実弥は大きな目をカッと見開き、真顔で星乃を見つめたまま言った。



「げ、」

「げ?」
















「玄優が、口ききやがった」







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