第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
玄弥を、想わない日はない。生きてくれていたらどんなにかよかっただろうと思う。
誰に話すでもないが、無惨という怒りの矛先が消え失せた今、玄弥を守りたい一心で貫き通してきた覚悟がすべて正しかったかといえば嘘になる。
数知れずほどのものを失った。多くの仲間の命と引き換えに成り立つ現在 (いま) に、一人で掴みとった安穏な景色は存在しない。
匡近の最期の言葉も、玄弥の願いも心に刻んで生きてゆくことを決めた日。
星乃とて同じだろう。星乃もまた時に眠れぬ夜を過ごしていることを知っている。
そんな日は、縁側に腰掛け二人して夜空を眺めた。互いに言葉を紡ぐことはなかった。ただ、繋ぐ手に生まれるあたたかさを心に注ぎ閉じ込めた。とはいえ、自分たちばかりが喪失感を抱え生きているとも思っていない。それはきっと鬼殺隊に限ったことではないはずだから。
形は違えど、誰もがなにかしらを抱えて生きているのだと思う。皆、表には見えぬ苦悩や憂いを抱えているのだろうと思う。
それでも、生きてゆくのだと。
なにひとつ失わず、幸福に満たされるばかりの人生ではそれが幸福だと気づくことさえできやしない。
そう、己の心を掬い上げて。
「······『玄優』か」
実弥は微笑んだ。
我が子たちは、この先、どんな風に成長しどのような道を歩むのか。親として最大限できることはしてやりたい。さりとて笑顔でいられるばかりの人生を送ることは困難だろう。
時に苦い思いを味わい、涙にくれる日も訪れるに違いない。
そんなときは伝えよう。手を握り、力いっぱい抱きしめよう。
父ちゃんと母ちゃんは、どんなことがあってもお前たちの味方だと。
(なんて、気が早ぇかなァ)
我が子たちの未来の姿を思い描き、実弥は先走る思いに苦笑を浮かべ鼻の下を軽く擦った。
「いい名だ」
涙は、零れ落ちるすんでのところでどうにか堪えた。