第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
柔く微笑む星乃の顔と、産まれたばかりの我が子の姿。実弥は二人を順々にその目で追いかけた。
まだ見えぬ黒目がちな瞳をうっすらと開閉し、小さな口をぽっかりと開け、時折手足をぎこちなく、懸命に動かす我が子に唐突に目頭が熱くなる。
実弥は、思わず指先でまぶたを押さえた。
「実弥、大丈夫···?」
「···ああ、悪ィ」
「そんな、謝ることなんてないわ···。けど実弥、スミレが産まれたときにはすぐに感極まっていたでしょう? 今回は少し様子が違うみたいだったから気丈に振る舞っているのかと思ってた···。気が緩んじゃった···?」
「それもあるが······こいつ、なかなか出てこなかっただろォ···。ガキにもお前にももしものことがあるんじゃねぇかと、正直、居竦んじまった······。鬼ブッた斬ってても怖ェなんざ思うこともなかったのによォ···。不甲斐ねェ」
「実弥···」
「琴の婆さんが一切動じてねェのが救いだった。俺ァ、お前の苦しみなら全部引き受けてやれると思っちゃいたが、こんなときばかりは指咥えて待ってるしかできねェんだよなァ······。つくづく、女ってのは凄ェもんだぜ」
目頭を押さえたまま淡々と胸の内を吐露する実弥。
冷静を保とうとする声音とは裏腹に、吐き出せば出すほど込み上げてくるものを塞き止められず、目尻の端から糸のような細い涙が頬を伝った。
「···私も、琴さんには本当に救われたわ。同じくらい、実弥の存在も心強かった。実弥がずっとそばについて手を握っていてくれたから励まされたの。汗を拭ったり脚を揉んだりしてくれたのも覚えてる。いてくれてありがとう実弥」
星乃がおもむろに寝床から腕を差し出す。
実弥は、両掌で星乃の手を包み込み、祈るようにひたいに近づけ目を閉じた。
「お前は立派だ星乃。どれだけ讃えても讃えきれねぇし、感謝してもしきれねぇ」
実弥を見つめ、星乃は静かに首を振る。
「しばらくはゆっくり休め。スミレのことは俺に任せてくれりゃいい」
「ふふ。こんなに素敵な旦那様がいてくれて、私は本当に幸せ者だわ」