第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
甘やかな実弥の声が脳内に染み渡る。
実弥の種を体内に迎え入れたのは久方ぶりなせいもあり、加えて今の囁きの相乗効果でふわふわした感覚はなかなか覚めてくれそうにない。
そんな心情を知ってか知らでか、なおも実弥は愛おしそうな眼差しを星乃に向けてくるばかり。
直後、
「──…ありがてェなァ」
星乃の頭をひと撫でし、実弥は目尻を下げてそう言った。
唐突な一言だった。
具体的な告白もない。
けれど、実弥の言わんとしていることが星乃には痛いほど伝わった。
──あの夜。
無惨との決戦へ向かおうとする最中、思い描いた実弥の微笑み。
いつの日か、鬼のいない世の中で、心穏やかに笑って過ごすあなたを願った。
抱えきれぬほどの幸福で満たされた生涯を送るあなたの姿を。
星乃も微笑んだ。
仕草。眼差し。息遣い。
長く時を共にすればするほど、ほんのわずかな空気の揺らぎでも感じ取れる互いの想い。
実弥も、きっと同じ気持ちでいてくれる。
訊かなくても、わかる。伝わる。
月並みな言葉しか持ち合わせていなくても。
あなたと共に
───同じ幸福に触れていること。
「ねえ実弥。ひとつ、わがままを言ってもいい?」