第5章 出藍の誉れ
星乃には、こうして憂いだ笑顔を浮かべてみせる瞬間がある。
星乃の母親と妹は同じ病で亡くなっている。
妹を産んですぐに他界したという母親を、実弥は遺影でしか見たことがない。
文乃に関しては修行時に何度かその姿を見かけていたこともあり、急逝の報せを受けた当時はまだ修行中の身だったが、葬儀にも参列した。
病弱で一日のほとんどを病床で過ごしていたという文乃。言葉を交わしたことはなく、しかし体調の良い日は内縁から窓越しに庭で稽古をしている実弥の姿を微笑ましそうに眺めていたのだった。
星乃とひとつしか違わぬ年齢であったせいか、だいぶん痩せてはいたものの、その容貌は姉の星乃によく似ていた。
ほどよく乾いた風が仏間に回り、ろうそくの炎が微かに揺れる。
厳かな静けさに心を委ね、星乃と実弥はしばらく無言で両手を合わせた。
星乃の開いた双眸に、母と妹の遺影が映る。
文乃は、病を抱えてはいたものの、用心さえ怠らなければ長く生きられることも十分に可能だと云われていた。
母が父のもとへ嫁ぎ、星乃と文乃を身籠ったように、文乃にもそれができるとなまえは信じて疑わず、医者になるという夢も文乃ならば必ず叶えられると後押していた。
文乃が亡くなり五年の月日が流れようとしている。しかし、なまえから"あの後悔"が浄化されることはない。
「実弥、疲れているのにありがとう。今夜はここから任務へ出向いてまた帰ってくる予定でしょう? 少し腹ごしらえしたら、日が落ちるまで客間で休んだほうがいいわ」
「ああ、そうさせてもらう。師範とゆっくり話したいこともあったんだが」
「父様も理解しているから安心して。何度も言うけど、実弥の元気な顔が見られれば十分満足なのよ、父様も、婆様も」