第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
衽を捲ると、ぐんと上を向いた陰茎が星乃の眼前にあらわになった。
実弥の導きで行き着いた亀頭の頂。傘のように掌を被せると、すでにぷくりと溢れ出ていた粘液で手心が濡れた。
重ねられていた実弥の手が遠ざかってゆく。
独り知らない場所に置き去りにされたような心細さが胸中を彷徨い、星乃はこくりと喉を鳴らした。
あれから口を閉ざしたままの実弥は、試すようにじっと星乃の出方を見ている。
星乃は、いざその瞬間を迎えたとたんどう触れたらいいのかわからなってしまった。頭の中が白で埋め尽くされてゆく。力加減もどの程度が適しているのか検討がつかない。
床事情を須磨に耳打ちされたのは、厨で後片付けを手伝ってもらっていた最中だった。
唐突なそれに星乃は飛び上がるほど驚いて赤面し、にも関わらずつい耳を傾けてしまった理由は須磨の持つ天真爛漫さが場の雰囲気に不快な生々しさを与えなかったためである。
あけすけでも、須磨からは不思議と不浄さが感じられない。
須磨は、夫婦であるのに星乃がいまだ夫である実弥の局部に触れたことがない事実に仰天し、「今晩は頑張って不死川さんを驚かせて喜ばせちゃいましょう!」と言って笑った。
須磨とのやりとりを思い返し、もっと詳しく伝授してもらうべきだったと星乃は内心で頭を抱えた。こっそりと教えてもらったのはおおまかな扱いかたのみだった。
そっと。手持ち無沙汰だったもう片方の手を陰茎体に添えてみる。
思っていた以上に硬く、浮き出た血管の感触が返ってきたことに、驚いた。
「あ、あの、痛かったら、教えてね」
思い立ったように声をかけると、実弥の視線に捕らわれる。
案のごとく実弥は言葉を返さない。ただ、ほのかに下がった目もとが「わかった」と言った気がした。
実弥の表情にドキリとする。
灼熱の中にひっそりと佇んでいるような蠱惑的な眼差し。
それはきっと与えられるばかりでは気づけなかった心の機微の一種だ。
星乃は高揚し一瞬のめまいを覚えた。