第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
「どんなって······まァ、たまんねぇっつぅか、もっとよくしてやりてェっつぅか、······愛らしい、っつぅか」
「ふふ。なんだか統一性がないような」
「うるせぇ。こう、いろんなモンがくんだよォ腹の底から」
「だったら、私にも教えて···? その、『いろんなものがくる』って気持ち」
実弥はとうとう返答に窮した。
星乃の眼球に潜熱がたゆたって見えるのは、身勝手な虫のよい幻影だろうか。
おそらく行灯の光が反射しているせいなのだと納得することで、己を保ち気を落ち着ける。
ただ、眼前に咲くふわりとした微笑みに憂色は感じられず、星乃が本音を偽っているとも思えなかった。
「愛しいひとの、ものだもの。気色悪いだなんて、一度も思ったことはないわ」
実弥の、ものだもの。
星乃は続けてそう口にした。
けっきょく星乃には敵わねェんだよなァ···と、実弥は敗北を喫したような心地に陥り内心で首を垂らすのだ。これも惚れた弱みだろうか。
頑なだったものが揉みほぐれてゆくような。尖ったものが削ぎ落とされてゆくような。
気がつけば、星乃はいつも実弥の中の柔らかな在処を見つけ出し、しなやかに泳いでいる。
こつん。星乃のひたいにそっと実弥のひたいが重なる。
「本当にわかってんのかよ······てめぇが、何をしようとしてんのか」
目を閉ざし、実弥は優しく言って聞かせるように問いかけた。もう一度まぶたを開くと、束になった星乃のまつげが白い頬に影を落とす光景を見た。
星乃は、ゆっくりと頷いた。
「上手にできる自信は、ない······けれど」
「お前に触れられたら、俺がどうなっちまうか、わかんねェ」
「そういう実弥も、私は全部、知りたいの」
実弥は、陰茎に寄り添ったままでいた手をそっと掴んだ。
己の手がひどく熱を帯び、星乃の指先の温度が低く感じる。
まだ直に触られてもいねぇくせに······と、実弥は滾った状態の自身を忌々しげに見下ろした。
「無理するこたァねぇからなァ······嫌んなったら、すぐにでも下げろよォ」