第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
星乃を、綺麗だと思わない日はない。
縁側で膝の上にスミレを乗せて唄を口ずさんでいる折も。
庭に咲く四季折々の花を見つけては、鼻先を寄せて香りを確かめる横顔も。
しかし昼間の姿は誰も目に触れることのできる星乃だ。
この、ゆっくりと艶色に染まってゆく星乃の姿を他者は誰も知り得ない。
(···見せてたまるかよ)
星乃の耳殻をそっと甘噛む。
星乃が小鳥のような声で「さねみ」と啼いた。
すべてが弾けた。
開花した性 (さが) と交わる時間に退屈という文字は浮かばない。
狂おしさにも似た想いで星乃を眺める。
眼前で乱れても楚々 (そそ) と揺れる花のように可憐な女は、スミレをあやす母親でもなく、来客に柔らかな愛想を見せる気の良い恋女房でもない。風鈴の音に耳を澄ませて、ぼんやりと茜空を眺める少女のような顔とも違う。
子守唄よりも高い甘声は今宵も実弥を眩ませる。
上気した頬を快楽に歪める表情は、実弥の幼く甘い加虐心をそっとくすぐる。
愛する女のすべてを五感に刻み付けられる特権は、実弥の独占欲にあふれんばかりの水を与え恍惚を増幅させるのだ。
星乃の目に映る己の姿が、情けなくもひどく熱を帯びていた。
引き抜いた指は星乃の愛液で艶に満ち、ちらちらと妖しく柔らかな光を弾く。
「ンだァこりゃあ···? すげェ糸引いてんじゃねぇかァ···」
「ゃ、だ···見せないで···ぇ」
親指の腹を重ね合わせて擦りつけ、おもむろに離した指先に引く糸を見せつけるようにしてやると、星乃はより赤面し顔を背けた。その恥じらいに忍んだ物欲しそうな顔つきに触発されて、愛おしさと劣情の渦が旋回から螺旋状に変化してゆく様を感じた。