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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:



 ポンポン。頭頂に響いた優しい音に身を委ね、まぶたを閉ざす。

 肩の感触。
 ほのかなぬくもり。
 息遣い。
 実弥から醸し出されるすべてが星乃には心地よく、次第にそれは『スミレの母である』という固い結び目を今宵もすっと緩めてくれる。



「どうだった? 今日のお料理」

「どれも旨かったぜェ? 宇髄たちも褒めそやしてくれたろう」

「私はほとんど婆様のお手伝いをしただけなの。けど、スミレもあっという間に成長して色々なものを食べられるようになっていくし、もっと頑張らなくっちゃって思って」

「お前は十分よくやってる。あんま気張り過ぎんなよォ?」

「ううん、それは大丈夫。実弥がまめにスミレの面倒を見てくれるから、毎日こうして湯浴みだってゆっくりできるし···。いつも本当に感謝しているわ。ありがとう、実弥」



 凭れていた肩から頭を離し、そう言いながら実弥に微笑む。

 流れるように交わし合った口づけは、とても優しいものだった。



 ( ああ···やっぱり今日は少し張り切り過ぎちゃったのかな )



 今度はぽすりと実弥の胸に顔を埋め、息を深く吸って吐き出す星乃。こうして実弥と触れ合うと、離れるのが惜しくてたまらなくなるときがあるのだ。時間の許す限り、いつまででも実弥に甘えていたくなる。

 だから、昼夜場所を問わずに実弥に愛でてもらえるスミレのことを、素直に羨ましいと感じてしまったのかもしれない。

 そんな自分が滑稽で、星乃は胸の内でこっそりと苦笑した。



「星乃」

「なあに?」

「···俺ァ······お前を綺麗だと思わない日は無ェ」



 胸もとを緩やかに上下させ、実弥はふいにそう言った。

 星乃は一瞬、実弥がなにを言ったのかわからず呆けた。というよりも、実弥の言葉が正確な形を成して星乃の鼓膜に収まるまでの寸刻、声音がゆらゆらと脳内で反響し、ぴたりと一致しないような感覚に陥っていた。



「っ、」



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