第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
金銭や物品に恵まれれば、飢えることはない。土地があれば田を耕せるし、家があれば雨風を凌げる。
けれど、孤独からぬくもりは生まれない。
言葉を交わし、笑顔を交わし、心を交わして生まれる絆。愛に触れ、愛を知り、愛を抱いて生きてゆくことの素晴らしさを教えてくれるのもまた人なのだ。家族のぬくもりは、赤子に最初に与えられる愛なのだ。
「テメェがそう願って家族と接すりゃあそうなる。つぅか、もうとっくになってんじゃねぇのか」
寛元の目尻に残った涙を指で拭いながら、実弥は言う。淡々とした口調でも、虚偽のない実弥なりの心遣いであると通じたのか、天元の振る舞いもすぐに普段の調子に戻った。
「っあ~~、やっぱ兄弟は多いほうがいいよな。最期は大勢の家族に看取られながらド派手にあの世へ旅立ちたいぜ」
片腕を上げ仰け反るように伸びをした天元の背を、雛鶴が優しく支える。
「それならお任せください天元様! アタシたちが十人でも二十人でもどんと産んでみせますから!」
「うーん···正直、私はそんなには産めないかな···寛元を産んだとき、すごく痛かったもの」
「あたしも三~四人くらいまでならなんとか···。ということで須磨、あんた一人で頑張んな」
「んな···っ、雛鶴さんとまきをさんの裏切り者おおおおぉぉ!」
「安心しろ須磨。お前のケツはここにいる誰よりも安産型だ」
「それならよかったですうううう!」
「いいんかい」
あははは。わははは。
こうして、思いがけない来訪者により、スミレの一歳の誕辰は賑やかな笑い声に満ちた一日となったのだった。