第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
「よし寛元、男ならどんとスミレとの仲を深めてこい」
天元が寛元を抱いて立ち上がる。
「んなもんまだわかるわけがねェだろう······」
「求婚だ求婚」
「ふざけんじゃねェブチ殺すぞォ」
「わかんねぇぜ? 年頃になったらスミレがうちに嫁いで来るかもしんねぇだろ?」
「ァ"ア"? 誰がテメェのとこへなんざくれてやるかァ」
実弥の撥ねつけを歯牙にもかけず、天元は自らの手で息子をスミレの傍らへ寄せた。
「···なんで俺の上なんだよ」
「ケチケチすんなって。寛元はまだ支えがねぇと座ってらんねぇし、いいじゃねぇか」
「きゃあ~! 天使様です、二人の小さな天使様がいますよぉ!」
歓喜のあまり飛びつこうとした須磨を、まきをが首根っこ掴んで止める。だが気持ちは皆須磨と同じようなものである。
並んで座る幼子二人に自ずと口もとが綻んでいる。
スミレは拳をしゃぶりながら、きょとんとしている寛元の横顔をしばし不思議そうに眺めていた。そのうち自分よりも小さな赤子に興味を抱いたのか寛元の顔や身体にぺたぺたと触りはじめる。
普段から人見知りをしないスミレは、近所の子供たちにもよくこうして手を伸ばしては愛想を振り撒き可愛がられている。
「いやあ、やっぱり幼子が並ぶと愛らしいなあ。こうやって見ると男の子ってのもいいもんだよなあ」
林道が、切れ長の目を細めて笑んだ。
すると、寛元が唐突にぐずり出した。
「お? どうしたァ寛元。んなすぐにめそめそしてるようじゃあスミレに笑われちまうぞォ。ほら、ほら」
実弥が両脚をとんとんと揺さぶると、ふたつの小さな身体が跳ねる。
とたん、ハッとしたように泣き止み、なにが起きているのかわからないといった表情で父と母を見つめる寛元。隣できゃらきゃらと笑うスミレ。