第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
「派手に愛されてんなぁ、不死川」
ニヤニヤする天元を横目に、実弥は参っちまったなァ···という心地で眉根を寄せた。とはいえスミレにはとことん甘い実弥である。
「仕方がねぇなァ······」
小声を漏らすと、実弥は絵本の表紙をめくった。
「ァー···、うさぎのダンス?」
「ぅぅ、ま」
「わあ、うさぎさんよスミレ。可愛いわねえ」
「きゃ~ぅ」
洋服を着た二足歩行のうさぎが三匹。月明かり照る野原で陽気に踊っている絵が描かれている。
スミレは、はじめて目にするうさぎという生き物を指差して甲高い声を発した。どうやら好きなものであると認識したようだ。
直後、実弥が口を開いた。
「タラッタ タラッタ
うさぎのダンスゥ
おつきさまがァ
みつめているよ
タラッタ タラッタ
かわいいダンスゥ
おつきさまも
いっしょにどうだぃ
けってェ
とんで
はねてェ
かける
さァさァ おどれェ
ピヨッコ ピヨッコォ」
「「 ブッ! ( 棒読み!! ) 」」
「なんだァァ?
変わった本だなァ絵本ってやつァ」
「だははははっ!!」
「宇髄······テメェはもう帰れェエ」
「不死川おま、その顔でタラッタピヨッコはねぇわ! だははははは!」
「うるせェ···! そう書いてあんだよォ···!」
「ふふふふふ」
「オイコラァ、星乃もなに笑ってやがる」
「ふ、ごめ、なしゃ」
実弥にむぎゅうと頬を掴まれてしまっても、腹の底から込み上げてくる面白みは治まらない。
笑っては駄目。実弥はスミレのために読んでくれたのだから。
懸命にこらえようとすればするほど肩が震えて唇がぴくぴくしてしまう。とはいえ星乃は普段からスミレを溺愛している実弥の姿を知っている。
天元たちは、鬼殺隊時代の実弥からは想像もつかない姿に腹を抱えているのだろうが、面白みをこらえる星乃の胸の内は愛しさからくる高鳴りに満ちていた。
そのとき、寛元が再び目を覚ました声がした。