第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
ヨーグルトとジャムは宇髄一家にも振る舞われ、苺、あんず、キウイフルーツのなかからお好みで選んだものを少量添えれば、この時代にはまだ珍しい甘味食のできあがりである。
「オイオイ、凄ぇがっつくじゃねぇかァ。んなうめぇのかァスミレ」
飲み込んだ瞬間またくれと催促してくるスミレに実弥も忙しなく箸を動かす。
実弥は普段からスミレの世話をよく焼いた。食事時ともなれば、実弥の膝のうえが定位置のスミレにこうして甲斐甲斐しく食べ物を与え続ける。
実弥の食事が後回しになることもしばしばなので交代を促すのだが、膝から降りたがらないスミレの傍らに星乃がついて食べさせることも珍しくなかった。
「不死川もすっかり父親の顔してんなぁ」
「なんだァ藪から棒に」
「いいや? スミレが可愛くてしかたねぇって顔してるぜ?」
いたずらな笑みを浮かべながらちゃかすように言う天元を、実弥はしばしじっと見た。
そういうテメェこそ、合間合間で背中の寛元を気にかけているその垂れ下がった目は何だと手鏡でも突きだ出してやりたくなってしまう。
まァしのごの言うのも面倒だ、と押し黙った末、実弥はハ、と不敵な笑みにも似た声を漏らした。
「たりめェだ。こんな愛らしいもんは無ェ」
「おーおー、言うねえ。うちの寛元だって世界一だぜ?」
「ああそうかぃ。その寛元はテメェの背で呑気に生つば垂らしてやがるみてぇだぜェ」
「っ、ゲェ! 寛元のやろ、また俺の一張羅ベトベトにしやがって!」
「赤子背負うのに一張羅なんざ着てくるからだろォ」
「でも、寛元くんとっても気持ち良さそうにおねんねしてるわね」
「寛元は天元様の背中で寝るのが大好きみたいなの」
「そうそう、あたしらがおぶってもここまでぐっすり寝ないもんな」
寛元の口もとを手巾で拭う雛鶴に、まきをも須磨もうんうんと同意する。
母親から離れたがらない幼子は多いとよく聞くが、スミレと寛元は父のぬくもりが大好きらしい。