第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
「ぁぅ、ま~」
星乃の姿を見つけたとたん、スミレが母のところへいきたいと小さな身体をよじらせる。
「スミレ須磨ちゃんに抱っこしてもらったの? よかったねえ」
「ぅ~ぅ」
「ん~っ、そうなの、嬉しかったの」
スミレの頬に唇を寄せながら、星乃は甘高い声で愛娘を愛撫した。
そこへ林道もやってきて、天元と陽気に挨拶を交わす。
せっかくなので、スミレの誕生日祝いを兼ね皆で昼食をとることにした。幸い、キヨ乃と星乃で普段よりも手の込んだ食事を朝から準備していたところだ。
「外は暑かったでしょう? すぐに冷たい飲み物をお持ちしますね」
「向こうの客間でいいかァ?」
「そうね。風通しもいいしそうしましょう。実弥、あと少しだけスミレをお願いしてもいい?」
「よォし、スミレこっち来なァ」
「ぁぅ」
「凄ぇなぁスミレはァ。ケーキなんざ豪勢なもん食えちまうんだもんなァ。小豆とどっちがうめェかなァ」
「きゃ、きゃ」
宙に掲げて数回優しく上下させると、スミレは黒目がちな目を煌々とさせ愛らしい声を響かせた。
そんな実弥の姿を背後から眺めていた二人。天元と雛鶴が顔を見合わせて目尻を下げる。
各々の道を歩みはじめて一年半。
こうして時折顔を合わせる付き合いとなった不死川家と宇髄家である。
実弥の雰囲気が目に見えて柔くなったことが、天元と雛鶴の目にはとても微笑ましいものに映った。
大広間にて座卓を囲み、思い出話や子のあれこれを語り合う時間はあっという間に過ぎてゆく。
寛元が目覚めたのですりつぶしたかぼちゃを与えてみたところ、一口含んだ瞬間渋い顔をしてみせたので皆でわらった。
まだ慣れないみたいと、雛鶴も苦笑する。
母乳を飲ませしばらくすると、寛元はまた安堵したように眠りに落ちた。
そして、いよいよショートケーキになぞらえたヨーグルトケーキの登場である。
掌ほどの小さなケーキ。一粒の苺が乗った可愛らしい食べ物の登場に、スミレは興奮した面持ちで座卓をばんばんと叩きはじめた。