第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
客間に脚を運ぶ途中、厨付近の廊下に漂う甘優しい苺の香りに、まきをや須磨もくんくんと鼻先を高くする。
そこへ、
「実弥、お客様どなただった······あらっ」
ひょっこりと姿を見せた星乃が表情を華やかにした。
「宇髄さんに皆さん···! お揃いでいらしてくださったんですか? 寛元くんまで···!」
「星乃さんごめんね。本当は事前にお手紙で報せようと思ったんだけど」
「俺がド派手に驚かせてやろうっつったの」
「ド派手でもねぇし、留守かもしれねぇとは考えなかったのかねェ」
「まあそんときゃそんときでいいじゃねぇかと思ってよ」
「スミレちゃん今日がお誕生日でしょう? これ、私たちから」
言いながら、雛鶴が正方形の紙袋を差し出す。
口折りの奥に覗いた包装紙の花柄が、星乃の目に鮮やに触れた。
「いやだ、いつも悪いわ。スミレが生まれたときにもたくさんのお祝いをいただいたのに」
「ふふ、それはお互い様でしょ」
「星乃ジャム作ってるんだって? スミレも食べるの?」
スミレの頬を指先でぷにぷにしながらまきをが言う。
「ええ。実はスミレにショートケーキを食べさせてあげたくて」
「ショートケーキ!? ショートケーキってあの白くて苺が乗ってるやつですか!? 星乃ちゃん作れるの!?」
須磨の顔色が一瞬で薔薇色に変化した。
「とはいってもなんちゃってショートケーキなの。まだ本物は食べられないから、パンとヨーグルトを使った小さな」
「へぇ。しっかしヨーグルトとはまた高級品じゃねえか」
「今日は特別にって父様が朝から買いに行ってくれたんです」
「はは、林道の親父さんもスミレにはベタ甘だなァ」
「初孫ですもの。可愛いに決まってるわよね」
よかったら私にも作り方教えてもらえる? と掌を合わせる雛鶴に、じゃああとで紙に控えてくるわねとの約束をする。
あとは、幼子用に甘さを控えた苺ジャムをヨーグルトに少量混ぜれば、ほんのり色づけされたショートケーキ (もどき) が完成する予定なのである。