第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
「きゃああスミレちゃん! そんな風にお鼻を摘ままれたらお姉さんは痛いです!」
「ぁぁぅ、きゃ、きゃ」
「あはは、いいぞスミレ、もっとやっちゃえ」
「うわぁん、まきをさんがまた意地悪なこと言ううぅ! けど今日はこのスミレちゃんの可愛いお手々に免じて許しますぅ!」
スミレは、目の前にいる須磨の顔の凹凸をぺチペチと叩いてみたりむぎゅうと握ってみたりする。
声音や香り、肌質など、母でも父でもないその違いに興味津々の様子だ。須磨が仰々しい反応をしてみせるほど、面白いおもちゃでも見つけたような表情できゃらきゃら笑う。
「···まァ、はるばる山越えてまでわざわざ邪魔しに来たんだろ? 上がってくれやァ」
追い返す理由はない。
実弥は宇髄一家を屋敷の中へと促した。
星乃と三嫁が文通をしているので、実弥と天元はこれといったやりとりをしていない。
時折嫁たちからの手紙に天元の一筆が添えられていることもあり、その筆跡から息災なのだろうと知れるだけで十分だった。
同じく星乃が実弥の近況を間接的に報告していることも知っている。
(もう、一年以上かァ)
どうりでスミレも成長したものだと、実弥は時の間しみじみと想いを馳せた。
星乃は? と、天元が問う。天元は、二人が夫婦になってから星乃を下の名前で呼ぶようになった。嫁たちの言う呼び名が馴染んでしまったせいでもあるが、飛鳥井ではなくなったというのが一番の理由だ。
「ああ、いま厨でジャムとやらを作ってる」
「ジャム? お料理は苦手だって星乃さんいつも言ってるけど、ジャムを作れるなんてすごいわね」
雛鶴が感心したように目をしばたたかせた。
「ジャムは甘露寺直伝のもんだと。甘露寺の遺した手記とにらめっこしながらやってるぜ。あと、星乃の婆さんも気にかけて手を貸してる」
「あ、本当だ。すごい甘い匂いがしてきた」
「きゃーん、おいしそうでちゅね~、スミレちゃん」