第25章 番外編 ①:*・゚* 或る風のしらべ *・゚・。*:
時は大正。
閑静な土地に佇む広い屋敷の門柱に、飛鳥井と不死川の表札が並んでいた。
実弥と星乃。二人の間に生まれた赤子が一歳を迎えた夏の日のこと。
「「ごめんください」」
敷居を跨いだ玄関口に、複数人の来客が訪れた。
「······何しに来たァ」
「よぉ不死川! 変わらず元気そうで安心したぜ!」
「こんにちは。突然お邪魔してごめんなさいね」
「あんた全然こっちに顔見せにこないからさ」
「やあん、スミレちゃんがおっきくなってますぅ!」
宇髄一家である。
須磨が、実弥の腕に抱えられた幼子を見るや否や「お姉さんのところにおいで~!」と両手を大きく広げてみせた。
つられるように、幼子も饅頭のような手で空を切る。
不死川スミレ。齢一歳。昨年の夏、産声を上げ誕生した実弥と星乃の愛娘。
「ぁぅ、ぁ」
「やっぱり星乃ちゃんによく似てますぅ! こちらのお方のような怖ぁいお顔にならなくて本当によかったでちゅね~、スミレちゃん~!」
「···オイ宇髄。揃いも揃っていったいどういう了見だァ」
スミレに頬擦りしている須磨の発言には目をつむり、実弥は天元に向かってぶっきらぼうに顎をしゃくった。
「なにってお前、今日はめでてぇスミレの誕辰だろ。だからこうしてみんなで祝いにきたんじゃねェか」
「わざわざ赤子抱えてかァ? ご苦労なこったなァ」
「うちのもそろそろ半年になるからな。交流にはもってこいだろ?」
「ハァ? いくらなんでも早すぎんだろォ」
「私たちも星乃さんとスミレちゃんに会いたくて···。けど、やっぱりご迷惑だったかしら」
雛鶴がそう遠慮がちに微笑む。
天元との間に宿った赤子を冬に出産したばかりの彼女は、今では星乃と同じ新米の母親だ。
天元の背には、スミレよりも一回りほど小さな赤子がすやすやと寝息をたてている。