第24章 季の想いは風に運ばれ
星乃さんが遺した日記帳は本来博物館などで保管されるべき代物で、貴重な資料のひとつであることは間違いない。
実弥さんへの想いや二人の馴れ初めが多く綴られていることから、不死川家ではおおやけにしないというルールが代々受け継がれているのだと教わった。
照れ屋な実弥さんと、控えめな星乃さんを気遣ってのことだろう。
俺は歴代の子孫の中でも最も実弥さんに似ているらしい。
俺、こんなに怖い顔はしてないと思うんだけど······ (集合写真はなんでそっぽを向いてるんだ?) と、少しだけ複雑な気持ちになったことは言うまでもない。
それでもいつしか祖母の話を夢中で聞いている自分がいた。実弥さんがすげぇ人だったというのがわかって、めちゃくちゃかっこいいじゃねぇかって、鳥肌が立った。
現代に鬼はいない。そうは言っても犯罪は日々どこかで起きている。
人の命を救うとか、そんな大層なことに憧れを抱いたわけじゃないけれど、俺は、家族や、友達や、この街が大好きだ。大切だから、恐ろしいことなんてなにも起きない、穏やかで優しい時間が皆に流れてくれたら俺も嬉しい。
「それじゃあ、ばあちゃんは実弘がお巡りさんになれるところを見れるまでは死ねないわねえ」
ふふふと、穏やかに祖母は微笑う。
「うん。元気で長生きしてくれよ、ばあちゃん」
「お巡りさんになるんなら、よう食べて、よう寝て、強くならんとね。実弘は優しい子だから、きっと立派なお巡りさんになれるよ。ばあちゃん、楽しみにしているからね」
祖母に笑顔でうなずき返し、花壇の横の水場で焙烙をすすぎながら、人喰い鬼がいる世の中か···なんて改めて考える。
現代も、幸せに満ち満ちた世界ばかりでないことは、小学生の俺でも時に実感することがあるのだ。だからこそ、実弥さんの話を聞いたとき、警察官という職業がふと頭に思い浮かんだのかもしれない。
当たり前にある日常を、誰もが当たり前に送れたらいい。
その当たり前を、守る手助けができたら、と。
祖母の話は二人の子供が無事に生まれたところで一度終わった。
星乃さんの日記には、実弥さんのその後の幸せな生涯がまだまだたくさん綴られているという。