第24章 季の想いは風に運ばれ
和室の外に伸びたウッドデッキは「縁側があるといいねえ」と言った祖母のために付けられたものだが、今ではほとんどが俺と妹の遊び場だ。
寝転べるくらいの広さがあるので、横になったりぼんやりするのも気持ちが良い。バーベキューや花火をするときにも大活躍で、祖母も一緒に楽しめることが嬉しいと言う。
「俺は後でいいから、紫織お前先に入れよ」
「···はあい」
妹はしぶしぶ立ち上がり、サンダルに脚を突っ込むと中庭を抜けてリビングまで駆けた。
「ばあちゃん、俺片付け手伝うよ」
「あらあら、ありがとう。実弘は本当に優しいわねえ」
「···別に、こんなの普通だろ」
褒められて、耳が熱くなった。
ばあちゃんはよく俺を「優しい」と言ってくれるけど、俺はただばあちゃんが好きなだけ。
ばあちゃんはこの間転んで腰を痛めてしまったばかりだし、助けられることは助けてあげたいと思っているだけ。
「実弘ももう12歳になるのねえ。来年、中学生になっても剣道は続けるのかい?」
「うん、剣道部に入るよ。うちの学区の中学の剣道部、強いみてぇだから楽しみなんだ」
祖母は、そうかいとにこにこしながら相槌を打つ。
花壇の隅に挿してあるカラフルなかざぐるまが、カラ···と音をたてて回った。
「なァ、ばあちゃん」
「うん?」
「俺、警察官になろうかなぁ」
「おや、どうしたの急に?」
「なんとなくさ、今の話聞いてたら、実弥さん、かっけぇなって」
「あらまあ、それは実弥さんも嬉しいでしょうねえ。きっと空から喜んでくれてるよ」
へへ、と俺も祖母を見て笑う。
今から百年以上前まで、この世には長いこと鬼というものがいたらしい。
うちには二本の日本刀が大切に保管されていて、(もちろん銃砲刀剣類登録証付きだ) それが歴史的にも価値のあるものらしいことは知っていた。とはいえ、まさか鬼狩りに大きく貢献した人物がご先祖で、あの刀が実際に鬼の頚を斬ってきたものだとは思ってなかった。
鬼にまつわる出来事は、歴史の一環として授業で学べる学校もある。その一方で、遺されている記録が不十分なこともあってか、世間一般にはおとぎ話のようなものと認識している人も決して少なくないのだという。