第24章 季の想いは風に運ばれ
ミミズが這ったような文字は俺にはちんぷんかんぷんで、自分で読むことはできなかった。その分、また祖母に話を聞かせてもらう楽しみができたと思えばいい。
見上げれば、薄雲の奥の朧月がご先祖様たちを導くようにふわりとした柔らかな光を放っている。
ばあちゃんが、「時を越えても、空は永遠 (とわ) に繋がっているんだよ」と言った。
彼らの歩んできた道を、俺は決して忘れない。
「実弘、あとはばあちゃんがやるから、あなたもそろそろお部屋へお戻り」
「うん。じゃあこれ、ここに置いて乾かしとくね」
ありがとうと微笑んだ祖母の膝の上には、日記帳と一緒に一枚の小さな絵画が乗っていた。
スミレの花束が描かれているその絵は星乃さんがとても大事にしていたものらしく、けれど鑑定に出したところレプリカ品であることがわかった。
本物としての価値はなくても、この先も宝物としてうちで大切に保管されていくことだろう。
「···なァ、ばあちゃん。そういえば俺、いっこだけ気になるんだけど」
「なにがだい?」
「実弥さんは、けっきょく何歳まで生きたんだ? じいさんになるまで生きられたのか?」
驚いたように目を丸くして俺を見る祖母。
夏草の青い匂いが鼻の奥に流れ込み、なぜか懐かしいような、胸が締めつけられるような心地になる。
カラ······カララ······
かざぐるまが優しい音を奏でて回る。
祖母は、淡くほのかな微笑みを浮かべてみせた。
ほろ苦いとも、心穏やかともとれるような、柔らかな微笑みを。
「実弥さんはね────…」
カラ···ン
( 了 )