第24章 季の想いは風に運ばれ
「今日はここまでにしようかねえ」
しわしわの祖母の手が、パタリと、古めかしい日記帳の扉を閉ざす。
「ええぇ~」
「おや、綺麗に食べたのねえ」
スイカの皮を皿に乗せ、妹はまだ聞きたいと小さな唇を尖らせた。おっとりと微笑む祖母に、続けて「おばあちゃあん」とせがむような声を出す。
昼間よりも少しだけ涼やかになった夏風が、ウッドデッキに並んで座る俺と妹の髪の毛をそよそよと吹き抜けた。
妹の食べ終えたスイカは赤い果肉の部分がさっぱりとなくなっていて、祖母が「綺麗に食べた」と感心するのも、まあ納得できなくもない。
妹が果物を食べるといつもこうだ。
マンゴーやメロンも然り、半分に切り分けたキウイフルーツをスプーンでくりぬくのも、妹はいつも皮がぺらぺらになるまでたいらげる。
「ほら、もうおがらも燃え尽きちゃったからね、片してあげないと」
開け放した窓際に腰を下ろしていた祖母が、庭の石畳の上の焙烙に目を向けた。
七月のお盆、夕刻。
風に乗り、どこかの家からほんのりとカレーの匂いが漂ってくる最中、送り火で焚いたおがらは焙烙の底で灰になっていた。
時は平成。星はめったに拝めない都市近郊。かろうじて、満月だけが朧に浮かんでいるのがわかる。
ここは、不死川家である。
「じゃあ、それ片付けたらまたお話の続きしてくれる?」
9歳の妹はまだまだ甘えたい盛り。うちは両親が共働きのせいもあり、俺も妹もおばあちゃん子だと自覚している。
「続きはまた今度。二人とも明日は学校があるでしょう?」
「実弘、紫織 (しおり) 、あんたたち、早く順番にお風呂に入っちゃいなさい」
祖母が妹をなだめていると、母が向かい側のリビングから俺たちに向かって呼びかけてきた。
昨年完成したばかりの新築の我が家は"コの字"の造りになっていて、広さはないが中庭と呼べるものがある。
今俺たちがいるこちら側に祖母の和室が、庭を挟んだ向こう側にはリビングがあり、俺と妹はしょっちゅう中庭を行き来して祖母の部屋まで遊びにきている。