第23章 きみに、幸あれ
わいわい、がやがや。
天まで弾んでゆきそうな、賑やかな笑い声。皆とてもいい顔をしている。
まだ、ここにいる者たちの人生は終わらない。
これから先に待ち受ける日々もまた、決して平坦で順調な道のりばかりではないだろう。
足早に様変わりしてゆく世に惑い、苦難や困難を乗り越えてゆかねばならぬ出来事に見舞われることもあるのだろう。
そして、誰しもがまた、必ず別れに直面するのだ。
人類に不死はない。
わずか数十年の生涯は、積み上げられてゆく歴史のなかの、閃光のような一瞬。
だからこそ、この世はまばゆく、人生は愛おしい。
同じ時代に産声をあげ、あまねく大地を力強く踏みしめる者たちよ。
道ある限り、命の果てまで歩いてゆこう。
大切なものを守り抜くため闘い続けた誇り高き同士の皆に、いつか再び巡り会えるその日まで。
心のままでいい。
───風のように。
「そろそろくたびれたろォ。辻待ちの馬車でも捕まえるかァ?」
「ううん、平気よ。街まであと少しだし、歩きたい気分なの」
この下町を抜け街道に出れば、林道が待っている。
生まれてくる赤子のための品を買い揃えたいとはりきる林道。街で買い物を済ませたら、馬車で飛鳥井の家まで向かう予定だ。
三日後、祝言を挙げる二人。
親族のみの慎ましやかな席だが、鬼狩りに関わりのある飛鳥井の血族たちは、実弥に会えるその日を心待ちにしてくれている。
「ふふ、詰襟の実弥も素敵だわ」
「まだちぃと息苦しいがなァ」
襟もとに指を挿し込むと、くいくいと緩める仕草をしてみせる実弥。その見慣れぬ袴姿が魅力的で、星乃は、密かに朝から胸を高鳴らせていたのだった。
祝言では、実弥のための紋付き羽織袴が用意されている。黒と白、それぞれの色があり、当日実弥が自身で選ぶ仕様だ。
実弥は白を選びそうな気がするけれど、黒でもいいな。
どちらでも、きっと似合う。