第23章 きみに、幸あれ
ぺこりと一礼する炭治郎を前にして、実弥は、禰豆子のときと同様戸惑いにも似た心地に陥っていた。
詫びたのは、ずいぶんなことをしたという自覚が芽生えたからこそだ。礼を言われるのはどうにもおかしいと思うのだが、炭治郎は本気で実弥に感謝している。それがわかる。伝わってくる。
やはり調子の狂うガキだと、実弥は思わず脱力した。
「···傷、残ったりしてねぇかよ」
「あ、それは大丈夫です。不死川さんに刺されたときの禰豆子はまだ鬼だったので、傷は完治してます」
「礼をしなきゃあならねェのは、俺のほうだろうが」
「え?」
「お前には、玄弥も世話になったらしいしなァ」
「不死川さん···」
炭治郎は、木々の隙間から降り注ぐ麗らかな日射しを仰ぎ見て、再び実弥を見つめ直した。
「俺は、玄弥に出逢えたことに心から感謝しています。それは、あなたがここにいたからです」
風が吹き、実弥の肺臓が大きく膨らむ。
炭治郎の向こう側で、生前の玄弥がわらっている姿が見えた気がした。
もしかしたら、玄弥も炭治郎と同じ思いを感じていたのだろうか···と考える。
"出逢えてよかった"
そんな、かけがえのない確かな喜びに辿り着ける人生は幸福だ。
ならば、弟に、生涯の友と言える仲間ができたことを心から感謝できる日が、いつの日かこの自分にも訪れてくれたらいいと思う。
「玄弥は、あなたのことが大好きでした」
互いを包む、たゆたう木漏れ日。
「ああ、知ってる」
そよぐ柔らかな光の中で、二人は小さな微笑みを交わした。
「実弥!」
高揚した様子でいそいそとやってきた星乃は掬い上げたような両手の中になにかを忍ばせ頬を桃色に火照らせていた。
「実弥見て、このどんぐりすごいのよ、とってもつやつやなのっ」
「どんぐりィ?」
「がっはっは! どうだ凄ぇだろ! 俺様の宝物だがしかたねぇ、祝いにくれてやるぜ!」
「おい猪ィ、テメェ変なもんよこすんじゃあねぇよ」
「なにぃいい!? 変なものとはなんだ!!」
「こんなにつやつやなどんぐりははじめて見たわ···!」
「···てめぇも喜んでんじゃねェェ」