第23章 きみに、幸あれ
「不死川さん、ご結婚おめでとうございます! すみません、俺たちお祝いの品をなにも用意できてなくて、急遽みんなで作った花冠を飛鳥井さんに」
炭治郎は、実弥のもとへ駆け寄るなり面目なさそうに頭を掻いた。
俺は花を摘んでくることくらしかできなかったんですけど···と苦笑する炭治郎の片腕は、まるで、死期の迫った老人のようにしなしなと干からびている。
右側の眼球にも光を感じられず、ああ、こいつもそれらの機能を失ったのだと改めて認識する。
もう一度星乃を見れば、白詰草の花冠で頭頂が彩られ、白にまぎれた一点の蒲公英の黄色が実弥の双眸にまばゆく映った。
別に、祝いの品なんざ構わねェよ。
そう言いかけたとき。
「おっさん」
炭治郎の肩越しから背後霊のごとく現れた人物がいた。
善逸だった。
「おいコラァ、誰がおっさんだァ」
「アンタですよアンタ!! アンタあんなに可愛いお嫁さん貰うんだから、もう二度と禰豆子ちゃんに手は出さないでくださいよ!!」
「···ハァ? なんのことだァ」
「なにを言ってるんだ善逸は?」
「聞いてくれよ炭治郎ぉお~! このおっさん、この間蝶屋敷で禰豆子ちゃんの頭なでなでしてたんだよぉ~!!」
「え?」
「アァ?」
泣きつく善逸をよしよしとなだめながら、炭治郎も意外だと言わんばかりに双眸を丸くする。
実弥に禰豆子の頭を撫でたという記憶は残っておらず、言われてみればしたような気もすんなァ程度のことがぼんやりと思い出された。
あれは確か、寝るのが好きだと屈託なく笑った禰豆子の姿が、玄弥と重なって見えたからだ。おそらく無意識だった。
「もう善逸はあっちへ行くんだ。ほら、禰豆子が呼んでるぞ」
「あ、禰豆子ちゃぁぁあん!」
手を振り回し、走り去ってゆく黄色の背中を見送りながら、まったく善逸は······。ため息をひとつ吐き、炭治郎はすみませんでしたと頭を下げる。
「あの、禰豆子から、不死川さんが謝ってくれたと聞きました」
「···ああ、まあ」
「ありがとうございます」