第23章 きみに、幸あれ
差し出された小さな真四角の風呂敷包み。祝いの品らしく、紅白の色合いが巧みに織り込まれていて美しい。
「おめでとう。不死川」
義勇は微笑んだ。
このとき、義勇に対して長いこと抱いてきた怒りの焔が、実弥のなかから消え失せていることに気づいた。
ずっと、辛気臭い男だとばかり思っていた。口を開けば勘に障るようなことばかり言い、いつも、一人離れた場所からこちらを見下しているような気がしてならなかった。
だが、こいつもこんな表情をするのかと、今さらながら思う。
ひょっとすると、幾らか誤解していた部分もあったのではないだろうか、と。
「···あァ」
片手を伸ばし、それを受け取る。
生き残った二人。
柱として最後まで共に戦い、これから先、同じものを背負って生きてゆくのだろう。
"ありがとう"はまだ面映ゆく、言葉にすることはできなかった。
「冨岡ァ······テメェも元気でなァ」
それだけを告げ、実弥もまた義勇にほのかな笑みを返した。
「不死川さん!」
向かう先、炭治郎が晴れやかな面持ちで手を振っている。
遠くを見やると星乃は若い隊士らに囲まれていた。
炭治郎の傍らには禰豆子がいて、先日蝶屋敷でばったり遭遇した記憶は真新しい。
反射的に、実弥の歩幅は狭まった。
鬼だった禰豆子を仕留めようとした事実はこの先も消えることはなく、人間に戻った今も禰豆子はそれを覚えている。だというのに、まるで何事もなかったかのように実弥に声をかけてきた禰豆子。
恐れるなり憎むなりされるだろうと覚悟していた。いやむしろ、そうであればもう少し素直に頭を下げられたのかもしれない。
どうにか詫び入れは叶ったものの、再びこうして顔を合わせることにはいまだ若干の戸惑いがある。
そんな実弥の思いなどどこ吹く風で、禰豆子は無邪気に「あ! 不死川さんおめでとうございます!」とまた笑いかけてくる。
心底大層な兄妹だと思う。