第23章 きみに、幸あれ
天元が腹を抱えて笑い出す。
義勇は、相も変わらず口不調法だった。
義勇が生まれ育った村では、婚礼の祝いに代表者が魚をまるまる一匹納める習わしがあったのだ。
幼い頃のそれを覚えていた義勇。ふざけているわけではない。これは義勇から実弥への真心なのである。
「馬鹿な······俺はこのために朝から川へ」
「その腕でかァ」
「魚釣りは得意なんだ」
「ああ~腹痛ぇ···。いいじゃねぇか不死川、折角だし貰っておけよ」
「いらねぇ」
「不死川」
「いらねェ」
「不死川」
「······」
またもや義勇に押し負かされそうになる実弥。このやりとりに、前回の苦い一件がよみがえる。
しかし実弥は一呼吸つき、再び冷静な口調で話しはじめた。
「俺はこれから街抜けて星乃の生家へ行くことになってんだ。気持ちはありがてェがコイツをまるまる一匹担いでは行けねェ」
「なんだ、そうだったのか。じゃあお前これからそっちで暮らすわけ?」
「ああ」
「婿養子かよ」
「いいや、不死川の名はそのまま受け継いでやれと師範は言ってくれてる」
「ふうん、まあそういうことなら仕方ねぇんじゃねぇか? 冨岡」
「そいつァ蝶屋敷にでも持っていってやりゃあいい。まだ床に伏してる隊士もいるみてぇだしよ」
「そうだな······ならばそうさせてもらうとしよう」
「んじゃあ、俺はそろそろ行くぜぇ」
「不死川、たまにはこっちにも遊びに来いよ!」
「気が向いたらなァ」
「不死川待ってくれ」
「アァ?」
「すまない、失念していた。これならば持っていけるだろうか」
踵を返したばかりのところで、いま一度立ち止まり振り返る。
義勇が、懐からすっと何かを取り出した。
「おはぎだ。不死川はおはきが好きだと言っていただろう」