第23章 きみに、幸あれ
「だからって無理は禁物ですからねカナヲ。どこかに行くの?」
「うん。桜の木のところ」
「初代花の呼吸の?」
「今、ちょうど見頃だものね」
「見に行くのはかまわないけれど、身体は冷やさないようにしてね!」
「大丈夫だよ」
ふと、星乃やアオイと会話をするカナヲの双眸に、実弥は微かな違和感を覚えた。
(アイツ···目が···?)
「それじゃあ私は食事の支度に戻るから、カナヲはくれぐれも無理はしないこと! 星乃さんもどうぞゆっくりしてらしてくださいね!」
縁側に横たわっていた割烹着を手に取ると、アオイはそれを着付けながらちゃきちゃきと屋敷の厨へ戻って行った。
星乃と談笑を続けるカナヲを見れば、一見わかりにくいものの、やはりまばたきや視線の方向に若干の不自然さが感じられる。
三人娘に訊ねてみると、カナヲの右目は失明に近い状態であることがわかった。左側も、機能はしているものの視力はだいぶん落ちてしまっているという。
そこへ、にょろにょろと、鏑丸が実弥の脚もとまで寄ってきた。
「······」
「不死川様?」
処置室へ向かいましょうと手招く娘たちに待ったをかけ、実弥は鏑丸を抱き上げた。
「なァ鏑丸。ひとつ、お前に頼みてぇことがある」
宝玉のような小さな赤い双眸が、実弥を真っ直ぐに見据えていた。
「鏑丸くん、カナヲちゃんにすぐに懐いてくれてよかったわね」
空にかざした一本のつくしを眺め、星乃は安堵の面持ちで双眸を細めた。
わらびやたらの芽などの山菜を摘みながらのんびりと帰途につく。今晩の食事は山菜づくしだ。
腹を優しく撫でながら、「わらびは混ぜご飯にして食べたいわ」と言う星乃に「そうだなァ」と返事する。
実弥は、鏑丸をカナヲに託した。
小芭内も右側が弱視だった。鏑丸が介添えとなり彼の視野を補っていたため、生活はおろか戦闘ですら別段大きな支障はなかったという。
ならば今度はカナヲの助けになってやってくれないかと、実弥は鏑丸に願い出たのだ。
鏑丸はしばし実弥に名残惜しさを感じさせるような動きを見せたが、カナヲと対面し触れ合うと、すぐに彼女を気に入ったようだった。