第23章 きみに、幸あれ
「輝利哉様···やはりこちらは」
「そんなことを言わないで実弥。僕たちにできることなんて限られているんだから」
「先ほどもお伝えいたしましたが、鬼殺隊がここまでやってこれたのは産屋敷家のお力添えがあったからこそのこと。これまで、お館様や御家族様にはどれだけ救われてきたことか···。感謝してもしきれません」
「実弥。父上も天から実弥に受け取ってほしいと願っているはずだよ」
「─っ"」
輝利哉の微笑みにはさすがの実弥もたじろぐばかり。
産屋敷家当主とはいえ、齢八才の笑顔はあまりに無垢なものである。
それ以上は返す言葉も見つからず、実弥は躊躇いながらも口を結んだ。なにより、耀哉の名を出された瞬間、輝利哉の肩越しに耀哉の幻が見えたような気がして、実弥の心持ちも思わず揺らいでしまったのだった。
「···ご厚情、深く感謝申し上げます」
ぎこちなく掲げた布包み。
今さらながら、これほどの大金をぽんと出してしまえる産屋敷家一族の偉大さに身が震える思いを抱く実弥である。
改めて深々とお辞儀をすると、輝利哉は満足そうに破顔した。
その脚で、実弥は星乃の待つ蝶屋敷へと赴いた。
賑やかな声のするほうへと進んでいくと、三人娘が庭先で長縄跳びをする姿が見えた。星乃とアオイが縄を回し、きよ、すみ、なほが息を合わせて数を数えながら跳びはねている。
鏑丸は、庭に咲く草花の隙間をのびやかな様子で蠢動していた。
「あ、不死川様だ!」
実弥の姿を見つけたなほの脚に、長縄跳びが引っかかり止まる。
「こんにちは! お怪我の具合はどうですか?」と、なほ。
「問題ねェぜ、順調だァ」
「そろそろお薬が無くなる頃でしょうか?」
「あァ、ついでに包帯も交換してもらいてぇんだが」
「かしこまりました! では処置室へどうぞ!」
次いで、きよとすみが実弥を囲う。
そこへ、病衣姿のカナヲがやってくるのが、見えた。
「あらカナヲちゃん、もう起きても大丈夫?」
星乃がそう声をかけると、カナヲは「おかげさまですっかりよくなりました」と微笑む。