第23章 きみに、幸あれ
両脇の背後には、妹君の【くいな】と【かなた】が揃っていた。
「星乃と祝言をあげるそうだね」
「ぇ、···と、何故 (なにゆえ) それを」
思わず実弥は双眸を丸くした。祝言に関しては口外はしておらず、のちに星乃と報告にくる予定でいたため驚きのあまり戸惑いをあらわにした。
「ふふ、爽籟から訊いたんだよ。おめでとう」
「「おめでとうございます」」
輝利哉に次いで、くいなとかなたの二人からも深々と頭を下げられる。
「···お心遣い、痛み入ります」
片膝を地につけ顔を伏せると、「もうそんな風にかしこまるのはやめておくれ」と、輝利哉の優しい声がした。
「···嬉しいね」
刹那、ふわりと刻が凪ぐ。顔を上げると、波風のない海原のような穏やかな眼差しが実弥を見ていた。
輝利哉は続けた。
「柱は実弥と義勇の二人だけになってしまっただろう? 心苦しくもあるのだけれど、だからこそ、実弥たちには幸せになってもらいたいと心から願っているんだよ」
「···輝利哉様」
「実弥、幸せになるんだよ」
まだあどけなさを残した声音が実弥の心に染み入った。
変声期前の輝利哉のそれは清らかな水のように澄んでいて、父の耀哉とはまた違った安堵感を与えてくれる。本当に、つくづく不思議な一族であると思う。
実弥は、輝利哉の想いに応えるように再び深々と頭を下げた。
「祝言は控えめに行うのだろう?」
「はい。身重に負担をかけぬよう、飛鳥井の身内のみで慎ましく執り行う予定です」
「ならば、これを受け取っておくれ」
輝利哉がちらりと目配せをすると、くいなの懐から取り出されたそれが実弥の眼前に現れた。丁重に差し出されたそれは、金色の絹布に鶴の刺繍がほどこされた長方形の布包み。
「これは···?」
なんとはなしに両掌に受け取ると、ずっしりとした重みが伝う。
「御祝儀だよ」
「ッ"、? っお待ちくださいませ輝利哉様。受け取れません」
「遠慮しないで。僕たちからのほんの気持ちだから」
「ですが、」
豪華絢爛な布包みを前に、実弥のひたいに汗が浮く。
このとんでもなく重く分厚いものが気持ち···?
手にしただけでもゆうに紙幣三百枚は下らない感触である。