第4章 旅は道連れ
時は大正。古き良き素朴な暮らしを営む者がある一方で、様々な西洋文化が都市部を中心に流れ込み、人々の暮らしに活気を与えた時代でもある。
その娯楽のひとつの象徴が、西洋のお菓子であった。
「なにを遠慮してやがる。手土産の金ぐれェ払ってやるよォ。ついでにお前が食いてェもんも買っちまえばいい」
「え···? まって、本当にそんなつもりじゃ···。ここは私が出すわ」
「俺が師範を訪ねんだから俺が出すのが筋だろう」
「そ、それならせめて自分の分は自分で買います」
「星乃の分が増えたところで何も変わりゃしねェよォ」
「変わります···っ、それに、この間の食事代だって実弥が」
「たまたま懐に金があるときにてめぇが飯に誘いやがるからだろォ」
「そんなこと言うけど···なんやかんや実弥はいつもご馳走してくれるじゃない」
「まったく、鼻の利くやつがちょろちょろしてんのも困りもんだぜェ」
「? 私、鼻は効かないけど」
「いいから黙って振る舞われてろやァ、てめぇはァァ」
速度を上げて歩きはじめた実弥の背中を、星乃は困惑しつつ追いかけた。
西洋のお菓子は桁違いに高級なものもあると聞く。時折実弥と食事をする馴染みの定食屋とはわけが違う。せめて折半にするべきだ。
トトトと駆け寄り、あの、実弥。そう声をかけると、なんだしつけぇぞ。目尻をつり上げた地獄の番人顔が振り向く。
これ以上はとても聞き入れてもらえそうにない。執拗にすればするほど実弥もまた意地を通してみせるだろう。
( ここはご厚意に甘えさせてもらっちゃってもいいかしら···? かれこれ長いこと甘えているような気もするけれど··· )
「おい、のろのろしてんなよォ。急がねぇと日が暮れちまうぜ」
う~ん···と頭を抱えている間まに再び距離ができていた。
眼前を横切る人力車。前を行く『殺』の背が遮られ、見失ってしまわぬよう、星乃も駆ける。