第4章 旅は道連れ
地を蹴りながら、ふと、実弥の誕生日が近づいていることを思い出した。
そうだ。普段からお世話になっているお礼も兼ねて、今年はなにか奮発したものを贈り物に選ぶのはどうだろう。
品物を贈るばかりが真心ではないことは重々承知だ。
匡近がいた頃は、木の上で待ち伏せて大量のイチョウやカエデを実弥の頭上に落としてお祝いしたり、(とても怒られた) カブトムシを採るための長~い虫取り網を二人で懸命に手作りしたり (すぐに壊れた) したけれど、一人ではこれといったびっくり大作戦も思い浮かばず···。となると、やはり品物を贈るのが手堅い。
昨年の品も、一昨年の品も、実弥はまだ使ってくれていると言っていた。
「······実弥、ありがとう」
星乃が隣に落ち着くと、実弥の歩幅がほんの少しだけ狭まった。
返事はない。いくら賑やかな街の中といっても、隣にいる星乃の声は届いたはずだ。
( ······どうしてだろう )
星乃は、これまで経験したことのない不思議な心地に包まれていた。
不器用な実弥の優しさに、心臓がどうしようもなく震えること。
それでいて、無性にあたたかなものが心を満たしてゆくこと。
すぐには答えは見つからないまま、穏やかな初秋の風が優しく頬を撫でてゆく。
今日のこの日を決して忘れないように、握りしめていたままの手巾を隊服の衣嚢へそっと戻した。