第4章 旅は道連れ
それでも、匡近がいた頃は、今よりもう少し笑顔を見せてくれた気がした。匡近が実弥を実弟に重ね合わせていたように、実弥も匡近を本当の兄のように慕っていたのだろう。
自分では、駄目なのだろうか。
実弥に助けられてばかりの自分では、姉代わりにはなれないのだろうか。
実弥のために、なにかしたいと思うのに。
てんで駄目な名だけの姉弟子。
力不足だ。情けない。
「あーあァ、しかし小腹が減ったぜェ。軽く飯でも食ってくかァ」
ぐるりと肩を回しながら実弥が言うと、カア、カア。二羽の鴉が空中を旋回しながら鳴き出した。
二羽は実弥と星乃の鎹鴉である。街中なので人語は控えているが、長年の付き合いだ。おおよそは何を云っているのか理解ができる。
「そんな時間ないって云っているみたいね」
「チッ」
「飛鳥井の家では婆様がはりきってご馳走を用意してくれているはずだから」
「師範や婆さんに手土産も買っていかねぇとだなァ。この街抜けたら店も無くなっちまうし、ちぃとばかし土産物屋に寄らせてもらうぜェ。それくらいならかまわねぇだろォ鴉共」
実弥が空を見上げると、『カアァァ』鴉の長い鳴き声が上空に響いた。承知した、とのことだろう。
「そんな、気を遣わなくてもいいのよ。父様も婆様も、実弥が顔を見せにきてくれるだけで十分なんだから」
「そうもいかねぇだろうが。師範の好物は羊羹だったか」
「そういえば、父様も婆様も近頃は西洋のお菓子に目がないんですって。かすてらとか、きゃらめるとか」
「おいおい、そりゃあてめぇが食いてぇだけじゃあねぇのか」
「やだそんなこと···(!)」
「···とんだ猿芝居だなァオイ」
「でも、人気の西洋菓子ってこの街じゃなきゃ買えないのよね。どれも高級揃いだし、実弥が買ってくれるなら助かっちゃうのになあ」
「はっ、んなとこばかりは抜け目ねぇよなァ、てめぇはよォ」
「ふふふ、なんて、嘘よ。ここは私がもつから安心して。いつも実弥にばかりご馳走してもらってるようじゃ申し訳ないもの」
輸入菓子を取り扱う店を目指して歩いてゆけば、色彩豊かな紙袋を提げている婦人がぱらぱらと目につく。
どのご婦人も満足げな様相で、心持ち足早だ。