第23章 きみに、幸あれ
実弥と星乃も各々で白菊を添え、折り目正しく両手を合わせた。そして、平地に広がる墓地を見返り、殉職したすべての隊士へも黙祷を捧げた。
兄弟子の墓の前に到着すると、実弥は星乃にあの世 (らしき場所) で匡近に会った話を語りはじめた。とはいえ会話の内容はだいぶん薄れかけていて、今思えば夢でも見ていたんじゃないかと笑われてしまうような話の気もする。しかし、匡近の墓石を見つめながら実弥の話に耳を傾ける星乃の表情はとても優しいものだった。
「···なんだァ? おい鏑丸じゃねぇかァ。お前こんなところにいやがったのかよォ」
小芭内の墓石の影から姿をあらわしたのは、白蛇の鏑丸。探してたんだぜェと手を差し出すと、鏑丸は実弥に向かってにょろにょろと胴体を伸ばした。
「この子、伊黒さんの···? もしかして、ずっと伊黒さんのそばにいたの?」
星乃がそっと鏑丸を覗き込む。
実弥の肩に纏いついた鏑丸は、目に見えて元気がなかった。
小芭内は、蜜璃に寄り添うようにして亡くなっていた。そんな二人のそばから離れられずにいた鏑丸。弔事が済むといつしかその行方をくらましていた。
「悪かったな···。伊黒を助けてやれなくてよ」
声を落とすと、実弥は懐からあるものを取り出し墓石に供えた。
「わ、飴細工? かわいい···。これどうしたの?」
「先日後藤が町に出向くっつうもんだからよォ、そのついでになァ」
"ついでに"の後に続く言葉は途切れたが、つまるところ、『飴細工を買ってきてくれと後藤に頼んだ』ということだろう。
後藤はどんな様子で実弥からの頼みごとを承引したのか。二人のやりとりを想像すると、なんだかほっこりしてしまう。
透明の袋に包まれた、竹ひごの先に巻きつく蛇の形の飴細工。真っ白で赤い目をしている小さなそれは、鏑丸によく似ていて愛らしい。
「すでに出来上っちまってるもんで悪ィが」
小芭内は、飴細工が出来上がるまでの工程を眺めるのが好きだった。
以前、実弥は一度それに付き合わされたことがあり、際限なく眺め続ける小芭内の隣でたいそうぐったりしてしまったことが記憶に新しい。
普段は見ることのないような小芭内の、まるで幼子のように双眸を輝かせていた姿が今でも眼裏に焼き付いている。