第23章 きみに、幸あれ
そう。とてもじゃないが、彼らが成し遂げた不朽の偉勲 (いくん) はただの一言で綺麗に収まる程度の称賛じゃ追いつかない。
藤の花の家紋の家で無事を祈るだけの時間は、気が遠くなるほど長かった。
自分だけが安全な場所で守られていることに、心苦しさが募った。
だからこそ思う。
鬼がいなくなった今、どうして下を向いて歩くことなどできようか。
実弥が、サキが。みんなが守ってくれた世界だ。
例えなにがあろうとも、多少の苦労は厭わない覚悟を持っている。
それに。
「煉獄のおじさまから聞いたの。はじまりの、日の呼吸の剣士は老いるまで生きたんですって。無惨が消滅したことで、もしかしたら痣の影響にもなんらかの変化があるかもしれないわ」
『痣者が必ずしも早世するとは限らない』
星乃が紡ぐ言葉を実弥は静かに受け入れていた。そうであればどんなにいいかと、願っている自分に気づいた。
「信じましょう実弥。生きることだけを、考えましょう」
星乃は、歩きかたの拙い子供の手を引くように、実弥の両手に指を繋げた。
実弥の右手には包帯が巻き付けられていて、二本分の指の存在を感じられない。それでも、あの凄絶を極めた戦いを思えば五体を失わずにいれたことが奇跡ともいえる。
毎日、毎日、蝶屋敷を訪れる。
扉を開けば、実弥がここにいてくれる奇跡。
「···だから」
まぶたを伏せて、まばたきひとつ。
今一度、星乃は実弥を真っ直ぐ見据えた。
「お願いします、実弥。どうか私に、この子を産ませてもらえませんか···?」
実弥の双眸が、ゆらりと揺れたのを見た。
「あなたの、お母様が、あなたの命を繋いだように」
指先が震える。
いつしか視界はあふれ出す涙で滲み、
「この子の命を······あなたの、生きた証を······私に、繋がせてもらえませんか······?」