第23章 きみに、幸あれ
「······んで、どうなんだよ身体のほうは···。まだ、悪阻 (おそ) もあるんじゃねぇのかァ」
「平気よ。大丈夫」
「よく見りゃあ、少し痩せちまったんじゃねェかァ? ちゃんと食ってんだろうなァ? ガキがでかく育たねぇぞォ」
実弥はもたれていた背を浮かせ、星乃へと向き直った。
穏やかな声音と眼差しからは実弥の心遣いが窺えた。
意識を取り戻して以来、実弥の双眸が血走ったところを星乃は一度も見ていない。
そっと伸びてくる、大好きな手。
頬に触れるぬくもりを、胸が絞られるような思いで迎える。
ぽろりと、涙が零れた。胸の内で、密かに張りつめていた糸が切れてしまった。
「よかっ、た···」
「···ぁ?」
「本当は、少しだけ、怖かったの···。実弥を困らせてしまったら、どうしようって」
実弥が痣を発現させたと天元から訊いたのは、無惨との戦いを終えた直後。
以前、及び腰にはなっていないと言ってくれた実弥だが、痣の発現が確定したことにより迷いが生じてもしかたがないと、星乃は気丈に振る舞いつつも胸の内では気構えていた。
「寝惚けたことを抜かしやがって······誰が困るもんかよォ······」
眼前で、呆れんばかりのため息が吐き出される。
「正直俺はァ、お前の腹ん中にガキがいるとわかって、内心、落ち着かねぇ···。嬉しくてたまんねぇ···。だがなァ、お前を差し置いて手放しで浮かれちまうのも申し訳ねぇもんだと、いざ直面して身に染みてんのは確かだ」
「そんなこと、言わないで」
「俺は、痣を出した」
「ええ」
「鬼共が消え失せても、残りわずかな命であることに変わりねぇ。そうなったら、苦労をかけることになる」
「実弥」
ぎゅっ、と。星乃は実弥の手を強く握った。
「言ったはずよ。この先なにが起きても、私の気持ちは変わらないって。無惨がこの世からいなくなったのは、実弥たちが身命を賭して戦ってくれたおかげだわ。鬼殺隊の、皆のおかげ。ありがとうなんて言葉じゃ、とても、とても足りないけれど、」