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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第23章 きみに、幸あれ



 ポトリと、寝具の上にりんごが落ちる。

 星乃は少しばかりまごまごし、どこか気恥ずかしそうな面持ちで指先に視線を落とした。

 時の間の沈黙。その間 (かん)、思いもよらなかった事実が実弥の脳内をぐるりと巡った。



「ハ···!?」



 腹の底から声がでる。おかけでまだ完治していない胴の傷にずっしりと重く響いた。が、星乃からの告白の衝撃に比べれば蟻が這った程度のものだ。

 いま、なんつった?
 腹に、子だと?

 オイオイオイ待ちやがれよ。そりゃァいつの話だァ?

 決戦の日からひと月も経ってんじゃねェかァ!!



「バ···ッ、おま、なんですぐに言わねぇんだ!」

「実弥、あまり大きな声を出すと身体に障るから」

「どうでもいんだよんなことたァ!!」

「ごめんなさい······実弥の状態が落ち着いてからのほうがいいと思って」

「だからって先伸ばしにしていいもんじゃあねぇぞォ!」

「状況が状況だったし、折を見てお話しようとは思っていたのよ」

「あァ、クソ、それでかよォ···!」

「え?」

「宇髄のやつがやたらお前の身体を気遣ってやがるなとは思っちゃいたが」

「宇髄さんには、実弥がまだ意識を取り戻す前に体調を悪くしていたところを見られてしまったから···」



 そういうことだったのか。

 すべてが腑に落ち、寝台の背もたれにぼすんと背面を預けた実弥は、肩の荷が下りたような心地と共に深い息を吐き出した。



「···お前、月のものがきたと言ってただろう」



 その後も情は交わしていた。秘奥で果てたのはあの一度きりだが、そればかりが懐妊に繋がるとは限らない。そう心得てはいるものの。



「おそらく、なのだけれど······やっぱりあの夜の営みで授かった可能性が高いみたいなの」

「どういうことだぁ?」

「私、月のものがきたとばかり思っていたのだけれど、もしかしたら、それが兆しだったのかもしれないって、お医者様が」

「兆し?」

「胚胎すると、出血することがあるんですって。思えば、確かに、普段の月のものとは異なっていたような気がするの」



 星乃の月事はもとより不規則で隔月となることも珍しくなく、経血は少なめだった。




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