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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第23章 きみに、幸あれ



 うっかり返し忘れてしまったと、その日のうちに彼女の鴉から謝罪の言付けを受けていた。近々共に見回りの任務をすることが決まっていたので、返却はそのときでいい旨を伝えていた。



「あの日、藤の花の家紋の家を抜け出して、赤く染まっていた東の空の方角を目指していた途中で紅葉さんと合流できたの」



 シャリ、りんごをかじる音が会話の間に滑り込む。



「俺があんだけ言ってのけても聞きやしなかったくせによぉ······挙げ句藤の花の家紋の家まで抜け出した奴が、よく紅葉に大人しく従ったじゃねぇかァ」



 実弥が少々不満げな声を出す。

 星乃は決まり悪そうに苦笑した。



「はじめはね、紅葉さんにもなにを言われても引くつもりはなかったの。だからそこでしばらく押し問答になって」






 山をひとつ越えようとしていたところで空中から羽音が聞こえ、紅葉に気づいた。

 よかった。これで正確な道のりを最短の距離で案内してもらえる。

 星乃は胸を撫で下ろし、手を振って紅葉を自分の元へ呼び寄せた。ところが、地に降り立った紅葉から発せられた言葉は予想外のものだった。



『星乃、藤ノ花ノ家紋ノ家二戻レ。実弥モソレヲ望ンデイル』



 これまで、良き理解者として連れ立ってきた紅葉の言葉とは思えない一言だった。



『っ、どうして紅葉さんまでそんなことを言うの? 嫌よ、私より年齢も階級も下の子たちが命懸けで戦っているのに···っ、それに実弥のことだって···っ』

『星乃ガ何ヲ言オウトワタシハ星乃ヲ無惨ノモトヘハ向カワセルツモリハナイ!』

『なら紅葉さんの許可はいらないわ···! 場所は検討がついているもの、私一人でもっ』

『モウソノ身体ハ星乃ヒトリノモノジャアナインダヨ!!』



 いつにも増して強く言い放った紅葉の言葉が、星乃からピタリと動作を奪った。






『腹ノナカニ子ガイル』






 ハ···と吐き出された息が眼前を白く染め、風音も、梟の鳴き声も、紅葉の声以外のすべての音が遠くなってゆくような感覚に陥った。





































『実弥ノ子ダヨ』






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