第22章 七転び、風折れ
「ア"、ア"、ア"、ア"ア"ア"ア"ア"!!!」
頭を大きく振り乱し、バラバラと崩れ去ってゆく巨躯。
長きに渡る悪夢のような夜 (よ) が明ける。
無惨は、塵となり消えた。
跡形もなく燃え尽きたその場所に、炭治郎が現れる。
もう駄目かもしれないと、皆の心に絶望が過った瞬間、肉塊の内側から力を振るった炭治郎の赫刀は誰の目にも行き届かなかった。
実弥は暗闇の中にいた。
振り向けば、玄弥と弟妹たちが光に包まれ穏やかに笑い合っている。
和気あいあいとした様子の家族をぼんやり眺めた。安堵もあるが、今はまだ、救えなかった罪悪感に胸が痛む気持ちのほうが大きい。
星乃も向こうにいるのだろう。匡近とはちゃんと再会できただろうか。
「お袋? 何で向こうに行かねぇんだ」
実弥は、光のないほうへと呼びかけた。
次第に遠ざかってゆく玄弥たち。しかし母の姿が見えない。
「お袋! そこにいるんだろ?」
すぐそこに母の志津がいる。実弥にはわかる。きっと、自分が今ここにいるのは母を向こうへ連れていくためだ。そう思った。
「私はねえ、そっちにはいけんのよ」
「なんでだよ、一緒に行こう! ほら!」
懐かしい声が返ってきたと思ったら、光には触れられないのだと母は言う。
実弥は手探りで見つけた志津の手を力強く握った。
ぬくもりは感じられない。それでも懐古に胸を締め付けられる感触だった。自分の手がでかくなっちまったせいか、それが昔よりも頼りなく感じた母の掌だったとしても。
「駄目なのよ······我が子を手にかけて天国へは······みんなと同じ所へは行けんのよ」
志津はうつむいて泣いていた。
手にかけたのは、志津の意志ではない。
鬼となり自我を失い、そうなった。おそらく弟妹たちは真実を知らない。皆母に会いたいに決まっている。
そこまで考え、だが手にかけたことは事実だと、拭いきれないものがある志津の気持ちも理解ができた。
志津の、己の罪を償いたいという真摯な思いが実弥には伝わった。