第22章 七転び、風折れ
まるで赤ん坊。奴は巨大な赤ん坊同様の姿と化したのである。
膨れ上がる肉塊。このままでは飲み込まれると判断し、炭治郎は義勇を後方に弾き飛ばした。
ギャアアアア!!!
けたたましい叫び声が市街地の空を揺るがす。
実弥は、肉体を陽光に焼かれ悶える巨大な赤ん坊の化け物を見た。
隊士や隠が一丸となり足止めを仕掛けるが、奴はなりふり構わず陽光の陰となる場所を探し求めているようだった。
焼けただれた肉塊で這いつくばう無惨。血鬼術を操れなくなった赤ん坊の姿でも、あの巨躯に踏み潰されれば万事休すだ。
"風の呼吸 玖ノ型"
『 韋 駄 天 台 風 』
隠めがけて振り下ろされた肉の拳を空中で斬り落とす。
地に全身を強打して、実弥は喀血 (かっけつ) した。もはや両脚で着地できる力は残されていなかった。
「ゲホッ···しぶてェんだよ糞がァアア! さっさと塵になりやがれェ!!」
執拗に食い下がる無惨に罵声を投げつけて、再び無惨に斬りかかる。
小芭内や義勇も実弥に続いた。
「オオオオオ!!」
無惨の頚に鎖を投げ入れ、奴の進行を阻止する行冥の姿もあった。
背後には大勢の仲間たち。片脚を失くした行冥を彼らが支え援護している。しかしあの巨躯の力は並外れている。ついに無惨は真砂土のなかへと沈みはじめた。
この、甚だしいほどの執念が奴を千年以上と生かし続けてきたのだろう。
皆、とうに限界を越えている。あらんかぎりの力を振り絞っても、また奴の執念に押し負かされてしまうのか。
ようやくここまで、ここまで奴を追い詰めたのに。
ビチッ!
遂に鎖が破壊され、皆がその場で震撼した。
あと少し、あと少しで無惨を滅ぼすことができるのだ。ここで奴を取り逃がしたら、これまでのすべてが水泡に帰してしまう。
どうか、どうか。
頼む。死んでくれ。
誰もが皆、無惨が燃え尽きることを神に祈った。
そして────