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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第22章 七転び、風折れ



 彼は、一人の隊士を抱きかかえていた。

 隊士は動かない。胴体から頭頂にかけてを薄手の絹布 (けんぷ) で覆われているため顔を確認することはできないが、身に纏っている隊服や履き物には覚えがあった。



「こいつをしばらく預かってくれ」



 実弥は、蜜璃の横合いを抜けながら隠にそう申し出た。



「っ、星乃ちゃん、なの···?」



 信じたくない思いで実弥のもとへ駆け寄ってゆく。

 声を震わせ、蜜璃は何度も星乃ちゃん、星乃ちゃん、と動かぬ隊士の身体を揺らした。

 実弥はしばし虚ろな双眸で蜜璃の振る舞いを見ていたが、



「···無駄だ、甘露寺」

「っ、」

「もう息は無ェ」



 抑揚のない声でそう告げた。



「けど、まだ蘇生法を施せば間に合うかもしれないじゃない···っ、私やってみる、」

「甘露寺」

「星乃ちゃ······──っ!」



 絹布がするりと隊士の身体から滑り落ち、あらわになった彼女の姿を目の当たりにした刹那、蜜璃は口もとに掌を当て、愕然として言葉を失くした。



「こいつァ、もう死んだんだ」

「···っ」

「鬼狩りの家に生まれ育った女だ。本望だろう」



 彼女をそっと寝かせると、実弥は拾い上げた絹布で再び亡骸を覆い隠した。



「っ不死川さんの嘘つき···! そんなこと思ってないくせに···!」

「決着が着いたら弔う。だが、俺に何かあった時にはそいつを頼む」

「不死川さん···!」



 蜜璃の悲痛の声だけが路地の壁に反響する。

 実弥は去り際、亡骸の隊服の胸の衣嚢から"あるもの"を抜き取った。それは、星乃が日々肌身離さず持ち歩いていたものだ。



「うっ、う"っ······ぇっ」



 ふらふらと、蜜璃は亡骸へと重い脚を引きずった。

 大好きだったしのぶも死んだ。
 たくさんの仲間が死んだ。

 ほんの少し前までは、みんな笑って生きていたはずの子たちだ。



「っ、ねえ、星乃ちゃん···っ、まだ、ジャムの作り方、教えてないよ···? 嫌だよこんなの···っ、あんまりだよぉ星乃ちゃん······っ」



 気丈であろうと決めた心が決壊してゆく。

 動かぬ亡骸にすがりつき、蜜璃は嗚咽しながらぼろぼろと涙を流した。


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