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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第22章 七転び、風折れ



 瓦礫の隙間から冷えた空気が流れ込み、実弥は意識を取り戻した。

 脳震盪を起こしたのだろう。まだ微かに視界が眩む。

 上体に覆い被さる瓦礫を押し退けようとした矢先、救出に来た隠が数人がかりで実弥をその場からから引っぱり出した。



「風柱様···っ、ご無事ですか···っ」

「···っ、あァ悪ィな、助かったぜ」

「どこか手当てが必要なところは···っ」

「いいや問題ねえ」



 即答し走り出す。

 次第に平衡感覚が整うと、地を踏みしめる脚にも力が入る。

 気を失っていたのは寸刻程度か。そうは言っても無惨との勝負は時間との戦いだ。気を抜けば、まばたきほどの一瞬で敗北し死に至る。

 赫刀で至る箇所に斬りかかっても奴を仕留めることはできなかった。やはりこのまま陽光の射す夜明けまで地上に留めておくしか道はない。それも人数が減れば状況は一層厳しくなってくる。

 地面は戦闘の衝撃で裂け、崩落した建物の瓦礫や硝子片、横倒れした街灯などが行く手を阻む。



「───!」



 高く積み重なった瓦礫を一息で飛び越えたときだった。視界の片隅に見知った身なりが映り込んだような気がして胸に不吉な影が泳いだ。

 倒れた電柱のその上に、ぼんやり浮かんだひときわ白い掌を見つける。脚をこちらに向けた状態で仰向けに反り返っている身体。見慣れた脚の装い。

 次の瞬間、実弥から音が消え、刻の流れが歪 (いびつ) に揺らいだ。

 まさか、と思った。



 (······いいや···違ェ)



 実弥は正面に向き直り、横目で一瞥したその姿を否定した。


 冬の空気は澄んでいる。

 パキリ。
 踏みつけた硝子片の音が、やけに清かに無音を裂いた。

 吐息が白いことに気がつき、ああ、今、自分は息を吐いたのだと知る。

 冬空のもと、「吐き出されて溶けてゆくこの一瞬が綺麗」だと微笑った星乃の顔が、鮮明に眼裏を埋め尽くした。



 (見間違いに、決まってんだろうが)


 顔は見えない。騒ぐ心を打ち消すようにそう言い聞かせ、実弥は再び鈍い動作で対象者へと首を捻った。


 とても静かだと感じる。

 ただ、変則的に刻まれる己の鼓動の音だけが、ひどく耳に障っていた。







「────────…」






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